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手錠は繋がったまま



「まあ、練習をするなら此処が最適だろう」


夜月が連れてきた部屋は、防音レッスン室だ。夢ノ咲学院アイドル科なだけあって、その設備はいき届いている。壁一面の大鏡が、最大の特徴だろうか。防音室のため、最大音量のマイクで叫んでやっと外に聞こえるくらいだ。

レッスン室は基本、予約制だったりの貸し出しだ。ただ誰もが平等に貸し出されるわけではなく、成績のないユニットは滅多に借りられない。また、借りるための資金も必要になるため、生徒は忙しなく校内アルバイトを駆け巡っている。


「やった! 俺たち一年生じゃめったに練習室なんて借りられないから!」

「ありがとうございます、骨喰先輩!」


練習儀に着替えた双子は、防音室に入って歓喜の声をあげた。笑顔で二人は、部屋を取ってくれた夜月にお礼を言う。
夜月は「名前で呼んでくれて構わない」と告げる。


「困ったときや分からないことがあれば、気軽に呼んでくれ。レッスン室を借りたい時でも構わない。私が手を回そう」

「「夜月先輩たのもしいっ!」」


双子の声が重なる。
夜月はクスクスと笑みを零し、練習にとりかかろうとするが、それは双子の声によって阻まれた。


「あ、そういえば。朔間先輩と夜月先輩ってどういう関係なんですか?」

「私と零かい?」

「ただのクラスメイトで部活仲間って感じじゃないですよね」


ひなたの言葉に、ゆうたが付け加える。

「もしかして恋人同士とか? 朔間先輩の口ぶり的にあり得るよね」ひなたがゆうたに同意を求める。
「朔間先輩、夜月先輩にベタ惚れっぽかったしね」ゆうたがうんうんと頷く。
「私と零が恋人? ははっ、ないない。危険分子すぎるだろ、核爆弾並みに」失笑しながら言う夜月に、双子は「そこまで言っちゃう?」と突っ込みを入れた。

改めて零と自分の関係をどう表せばいいのか考えてみるけれど、うーんという唸り声をあげるばかり。


「そうだねぇ・・・・・・ある事を解消するために利用し合う事を契約した、協定仲間?」

「えっ、そんな冷めた関係なんですか」

「ははっ、四割がた冗談さ」

「六割は本気なんだ・・・・・・」


夜月は大笑する。

ひなたやゆうたは、あの一言だけでも零が夜月をベタ惚れしているのが一目瞭然だったにもかかわらず、案外冷めた関係なことに若干引きながらも、この二人なら寧ろゲーム感覚で楽しでそう、という感想に至った。

実際のところ、言葉にすれば酷く冷めた関係に聞こえるのは確かだ。だが実態はそんなことは無く、二人が思った通り、楽しみながらその関係を続けている。むしろ楽しむことが、この協定の肝なのだ。

パチンッ、と手を叩く音が響く。


「さあ、そろそろ練習を始めましょう。ひなたくん、ゆうたくん。君たちのパフォーマンスを見せてくれ」

「「はいっ!」」


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