無敵遊戯
「頼みがあるんじゃが」
目を丸くして、瞬きをした。
零を見つめていた夜月の表情は、次第にニンマリとした笑みを浮かべ始める。
「ああ、いいとも! 君の頼みなら何でも聞くよ!」
* * *
「朔間せんぱーい」
「俺たちに紹介したい人って誰なんですか?」
放課後の軽音部部室には、そこに常時居座っている朔間零のほか、双子の葵兄弟がいた。双子は零に呼び出されて早めに部活へ来ていた。話を聞いてみると、紹介したい人がいるというが、その人は全く現れない。
「S1向けておぬしらのプロデュースを頼んでおいた。有意義な時間を過ごすがよい」
「じゃあプロデューサーの人? あの転校生さんじゃなくて?」
「プロデュース科には以前から一人だけ女子生徒が在籍しておる。わけあって今は身を潜めているが」
「へえ〜」と二人の声が重なる。
新設されたプロデュース科の最初の生徒で、朔間零が頼みを申し込むような人物。双子の興味を引くには簡単だった。
「どんな人なんですか?」
「そうじゃのう・・・・・・愛らしく、そして美しく。あらゆるものを魅了し、惑わし。彼女に敵う者はいない。愛くるしい、我輩の愛し子じゃ」
* * *
「やあ。君たちが一年生ユニット、『2wink』の葵兄弟だね。聞いていた通り、見分けがつかないくらいそっくりだ」
あれから数十分後、軽音部部室に姿を現したのは綺麗な人だった。
制服のリボンが緑色の事から、学年は三年生。
銀色の長髪に、零の瞳よりも濃い赤い瞳。アルビノという障害の特徴に似ている。
その人は二人を見るの楽し気に笑みを浮かべ、一人でうんうんと頷く。
葵兄弟はぽかんと置いてけぼりを喰らっていた。
「これこれ、一人で盛り上がるでない。まずは自己紹介をせんか」
「ああ、すまない。そうだったね」
ふふ、と綺麗な笑みを零して、その人は改めて二人に向き合った。
「プロデュース科のテストケース第一号、三年の骨喰夜月だ。クラスはそこにいる零と同じ、部活も一応軽音部に所属している」
「えっ、そうなんですか!?」新たな部員を知り、葵兄弟は驚いて見せた。すると、水色のヘッドフォンをした双子の片割れが「あ」と声を零し、肘で片割れをつついた。
「あ、俺は葵ひなたって言います!」
「俺は葵ゆうたです。よろしくお願いしますね」
ピンク色のヘッドフォンを付けた子がひなた。水色のヘッドフォンを付けた子がゆうた。ひなたよりゆうたのほうが落ち着いた印象をうける。どうやらお互い似ているため、イメージカラーで見分けてもらっているらしい。
「夜月、話した通りこの愛し子たちのプロデュースを頼む。ビシバシと遠慮なく鍛えておくれ」
「勿論だとも! 久方ぶりのプロデュースで私も心躍っている」
「期待してくれても良いぞ、零?」「うむ、期待しておるぞい、夜月」と微笑み合う二人を見せられるひなたとゆうた。二人のただならぬ関係をたいま見た気がする。
「さて。ではさっそく、防音室に行こうか」
夜月はそう言って、防音室のカギをポケットから出した。