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やさしくされる理由のない日



手をひかれるまま連れてこられたのは山の上だった。長い階段を黙々と登っていくとお寺が見え始める。零はお寺へ向かって歩いていき、玄関を無遠慮に開けた。


「おーい、敬人ー。俺様が遊びに来てやったぞー」


玄関から大声で呼びかける零。
それを夜月は横目で見やる。


「此処、人の家だろう。いいのか」

「いーんだよ」


やがて寺の奥からドタバタとした音が響き、だんだんとそれが近づいてくる。寺の奥から走って出てきたのは眼鏡をかけた同い年くらいの見るからに勤勉そうな人で、眉間にしわを寄せて零を睨みつけた。


「朔間さん! こんな時間に連絡なしで来るのはやめてくれ! ・・・・・・というか、ずぶ濡れじゃないか」

「おう。取り敢えずこいつに着替えと風呂用意してくんねぇか。俺はタオルで良いからさ」


そう言って零は夜月の肩を抱いて引き寄せた。それにより夜月に視線を向け「話はあとで聞かせてもらう」と告げながら、その人は親切に着替えやタオルを提供してくれた。
此処まで来てしまったことだし、夜月は零や彼に促されるままそれを受け入れた。

風呂を沸かしてくれて温かい湯船につかる。しっかりと体を温め、用意してくれた服に袖を通す。趣高いお寺だけあって用意してくれたのは浴衣で、濡れた服は別室で乾かしておいてくれた。

風呂から出て二人のところへ行くと零が知ってる限りの事情を話したのか「大変だったな」と気遣いをされた。
彼は蓮巳敬人というらしい。同じ学院で、生徒会を発足しようと一から動いているらしい。零とは昔馴染みだとも言っていた。

時間も時間だしと言って、敬人は零や夜月に晩御飯まで提供してくれた。零は良くここにきているような口ぶりで、遠慮も無くそれを受け取り、敬人も呆れた顔をするだけ。
夜月は慣れないこの空間に戸惑いながら黙々と箸を進めていた。

夕食をご馳走になって少し経った頃、部屋に着信音が響いた。スマホを手に取って確認すると、画面には月永レオの文字が表示されていた。確認してみれば、何度か電話がかかってきていた。


「悪い、少し良いか」

「ああ」


許可を取って通話ボタンに触れ、襖をひく。「夜月ーっ!! 今どこにいるんだよ! 家に行っても夜なのに居ないし!」スマホの向こうから鼓膜が破れるほどの大音量で半泣き状態で叫ばれる。「ボリュームを下げてくれ・・・・・・少し外に出てただけだよ」夜月は部屋を出て襖を閉めた。

夜月が部屋を出たのを確認して、敬人が口を開く。


「彼女、骨喰はプロデュース科の生徒だろ。いつの間に親しくなったんだ?」

「あー、最近? ま、俺様は振られまくってるけどな」

「ほう、朔間さんを振るとはなかなか肝が据わっている女性だな」

「まあ据わってるだろーな。俺と同類だし」

「骨喰を同類扱いをするな、失礼だぞ」


すると、もう話し終えた夜月はスマホの通話を切って部屋に戻ってきた。
「もういいのか?」と敬人が聞くと夜月は頷く。


「ご両親からか?」

「いや、幼馴染。そろそろ御暇するよ」


長居しても迷惑だろうと続け、風呂等々の提供に礼を述べる。乾かしてもらっていた服に着替えなおして帰ろうと玄関まで行くと零が口を出す。


「送ってってやるよ、また何かあったら困るだろ」

「いや、一人で帰れる」

「女性を夜に一人で歩かせるわけにもいかないだろう。ここは朔間さんに甘えておけ、骨喰」


気遣い気に最後に付け足す敬人の言葉に、夜月は何も言えなかった。黙って目を逸らす夜月を引っ張るように、零も一緒になって寺を後にした。


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