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冷えた肌に温もりを



夜の雨の中を走っていた。雨が降りしきるなか、深くフードを被った。ずぶ濡れで駆け抜けていくのをみて、すれ違う人間たちは怪訝そうにそれを見つめた。夜といっても、此処は繁華街。少し治安も悪く、夜でも人は大勢いた。ふと背後を確認すれば、ガラの悪い男が三人ほどまだ追いかけてきていた。

雨の中走って、面倒なことになったなとまるで傍観者のように思った。


最初は家で窓を眺めていた。窓に打つ雨を見つめていると、なんだか家に一人でいることに居心地の悪さを感じて、何も考えずに外へ出た。雨を凌ぐためにフードを被って、傘は置いていった。
雨は容赦なく身体に打ち付ける。目的のないまま、どこに向かうでもなく、ただ歩き出した。

こんなダウナーな気持ちになるのも、全部アレのせいだ。

零があの契約を持ち出してから、周りの環境が少し変わった。以前よりも零は付きまとってくるようになり、あれやこれやと厄介ごとに巻き込んだ。それらは大から小のものがあり、単純なものも複雑なもの、安全なものから危険なものまであった。
さすが『同類者』というわけか、お互い退屈を凌ぐためのスリルを求めるのは同じだったらしい。

そんな厄介ごとに巻き込まれる日々が続いた。

確かに、退屈ではなかった。面白くも楽しくもないことばかりだったが、モノによってはそれなりに面白いものもあった。でも、それがいけなかった。少しでも楽しんだことを自覚するたびに軽蔑して、後ろを振り返る。そんな毎日が続いた。

複雑な心境が続いたせいでこんなことを思ったのかもしれないが、でも何よりもレオの言葉が効いた気がした。


「おまえ、最近なんか楽しそうだな」

「・・・・・・え?」


はじめは何を言われたのかわからなかった。
目を丸くしてレオを見つれば、レオは腕を組んで考えこみながら続けた。


「うーん・・・・・・なんか、前より楽しそうな気がする。仲いいやつも増えたしな! 最近はほら、サクマレイ? とよくいるみたいだし」


レオはニコニコしながら言う。それに対して夜月は完全に動きを止め、流れてくるレオの声だけを拾っていた。


「おれは夜月が楽しそうで嬉しいぞ! あーっ、でも悔しいっ! おれがおまえを楽しませたかったのにーっ!」


嬉しそうに笑った後、今度は悔しそうに頭をガシガシとかく。そのあと漏れをは何かを零していたけど、耳には入ってこなかった。ただレオに言われた言葉に呆然と立ち尽くしていた。

あの言葉が呪いのように巣食った。

ぼんやりと雨の中歩いていると、どうやら繁華街まで来てしまったようだ。思ったより遠くまで来てしまった。

ずぶ濡れで繁華街を人を避けながら歩いていると、突然声を駆けられた。その声に止まってしまい、仕方なく振り返ると声をかけたのはどう見ても柄の悪い男たち。いわゆるナンパだ。しつこく絡んでくる彼らに苛立って冷たくあしらっていれば、逆上をされた。

ああ、また面倒なことになった。
夜月は雨の繁華街を走ることになった。



* * *



特にすることもなく、歩いていた。
今は夜だから、昼のときのような怠さもない。家にいても暇なだけだしと傘を持って外に出たのが始まりだ。

雨でも賑わっている繁華街にきたのはいいが、特にすることもない。どうしようかなぁと思いながら傘をさして歩いていると、向こう側から雨なのに傘もささずに走ってくる奴に気付いた。体つきから女か子供の男だろう。

何気なく走るそいつを特に意味も無く目で追う。そしてすれ違う時、そいつと偶然目が合った。思わず声を零した。


「は?」


そいつもこちらを見て目を一瞬見開いたが、そのまま走り去っていった。
目を丸くして走っていった方を眺めていると、今度は視界の横から数人の男が走り抜けていく。向かう方向は同じだった。状況から追われているのは明白だった。
見過ごすわけにもいかず、深いため息を落とした。


「たく・・・・・・仕方ねぇな」


傘を放り投げて自分も同じ方向へ走り出した。



* * *



いい加減、疲れてきた。体力はある方だが、あれだけ全力疾走し続ければ息も切れる。ちらりと背後を確認するが、懲りずに追手はついてくる。
いい加減諦めてくれないか、何をそんなに執念深く追いかけてくるのだ、と鼻で笑ってやりたくなる。

はあ、はあ、息が切れる。そろそろ体力の限界だった。
此処は小道や曲がり角も複数ある。上手く入り込んで隠れればやり過ごせるだろう。ただ行き止まりに当たった時が厄介だ。

体力の限界を感じながら辺りを見渡して脱出経路を考えていた時、突然強く腕を掴まれ引っ張られた。


「ッ!?」


腕を強い力で引っ張られて身体をよろめかせると、いつのまにか肩を抱かれていた。ゆっくりと顔をあげると、抱きとめていたのは零だった。見上げてくる夜月に気付くと、零は人差し指を唇に当てて「シー・・・・・・」と艶やかに目を細める。

自分の身体で夜月のを隠すように背を向いて立ち、零は視線を背後に向けた。少しすると、夜月を追いかけていた奴が走ってくる。彼らはこちらに気付くことなくそのまま走り去っていく。

姿が見えなくなったのを確認すると、零はゆっくりと夜月から身体を離した。


「・・・・・・行ったみたいだな。大丈夫か?」

「すまない・・・・・・迷惑をかけた」


夜月は少し申し訳なそうな顔をした。
一瞬だったがすれ違った時、零は傘をさしていたはずだ。それが今は無い。零も一緒になって雨に濡れていた。


「たく、何してんだよ。ずぶ濡れになって、風邪ひくぞ」


ずぶ濡れの夜月に手を伸ばし、フードの隙間から雨に濡れた頬に触れた。髪は雨で肌に張り付き、ずいぶん長い間雨に濡れていたせいで体温も大分下がっていた。ひんやりとした頬に触れて、零は目を細める。


「だいぶ冷えてんな」

「君の手も冷たいよ」


指で頬を撫でると、夜月は零の手を掴んで下げさせた。掴まれた手も指先まで冷たくなっていた。それを温めるように零は素早く手を掬い取った。


「んじゃ行こうぜ」

「え、何処に?」

「いいから、まず温まんなきゃな」


零は有無も言わさず連れ出すものだから、夜月は黙ってそれに従った。

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