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ただの契約のはずだった



あれ以来、予想通りに瀬名泉との交流が増えた。
レオは毎日のように泉とつるんでいるし、レオが何かをやらかさない日などは無く、大抵毎日泉からのお小言を言われるようになった。レオ本人に行っても意味がないと泉も分かっているし、どうやらレオは夜月からの言う事なら大抵従うと理解したらしい。

たまにレオの突然な誘いにより、三人で外食や家で食事をしたり、作詞作曲またはダンスや歌などに精を出す日もあった。大抵はレオか夜月の家で放課後に行われた。

また、レオはすでにこの学院に興味を失くしてしまったようで学院に通うことが少なくなった。今の学院は荒れている。抱いていた予測とおおくかけ離れていたのだろう。

そんなレオを学院に連れてこようと今度は泉が動き出した。迷惑していると口では言いつつ、夜月が一人で登校した日には必ず二人でレオの家へと踵を返して首根っこを掴んで登校させた。そのたび「幼馴染なんだからアンタがちゃんと面倒みなよねっ!」と怒られた。

そんなことをしていたおかげで、必然的に泉との交流が深まった。お互い口に出して仲が良いと肯定することは無かったが、夜月は図書室にいないときは泉と過ごすことが多くなったり、泉はレオがいないときは夜月と一緒に居ることが多くなった。

それもこれも、きっと泉の世話焼きのせいだろう。はっきり言って、泉は他人の世話を焼く癖がある。鬱陶しいと思いながらもレオを登校させたり、学院に一人の女子生徒でどうしても浮きがちな夜月を気に掛けるのもそうだ。それが泉の優しさだろう。



* * *



学院に来てから、それなりに時間が過ぎた。春は過ぎ去り、そろそろ季節の変わり目。最近は雨が増え、気温も上昇した。ジメジメとした暑さと気分を低下させる雨のせいで、鬱陶しい毎日が続く。

それでも変わりなく、夜月は相変わらず図書室に籠っている。しかし、それももうすぐ終わりのようだ。夜月は図書室にある本だけでなく、地下にある本すらすべて読み終えてしまったのだ。
いくら泉やレオと過ごす時間が増えたとしても、毎日朝から晩まで本を読み続け一日に約十冊積み上げていけば、あっという間だ。

これで地下へと用もなくなった。そうなれば、このカギも用済み。持っていても仕方がないと、夜月は嫌々ながらも零を探しに学院を歩き回ることになった。そもそも学院に来ているかも怪しいが、朔間零は良くも悪くも目立つ人物だ。見つけるのは簡単だ。

探し回って数十分で、零は見つかった。全く機能していない生徒会室を覗けば、零は机に腰を下ろして窓の外を一人眺めていた。空いた扉に気付いて夜月に目を向けると、意外そうな顔をした後、またニヤニヤと笑みを浮かべる。


「夜月ちゃんから来てくれるなんて珍しいじゃん。なんだ、寂しかったのか?」

「そんな馬鹿なことがあるか」


バカバカしいと夜月は呆れた様子で吐き捨てた。それを気にせず零は「んで、なんだよ」と身体を夜月に向けて座り直す。カギをポケットから出して「返す」と突き出す。「もう読み終えたからな」零の手のひらにカギを置きながら言えば「は?」と素っ頓狂な声が零れた。

もう読み終えたのか、と予想よりも何倍も速い展開に、零は少々驚きを見せた。返されたカギと夜月を交代に見やる。そして何か思いついたのか、ニヤリと口端が不気味に上がった。


「なあ、俺と一緒に面白い事、してみないか」


夜月は何も答えなかった。
ただその表情を見て、また面倒で厄介なことは理解できた。


「お前には良くも悪くも面白いことが舞い込んできそうだからな。傍に置いとくのが良い」


モノのように利用しようとするその言い分に、夜月は眉をひそめ少なからず腹を立てた。


「君の退屈しのぎの玩具として利用される気は――」

「代わりに俺がいる限りお前を退屈にさせねぇよ」


少し間をおいて、疑り深く目を細め零を見つめる。相変わらずその表情は変わらない。「悪い話じゃねぇだろ?」と瞳で言われたような気がした。

長い沈黙が続いていく中で、ふと外から大きな話し声が聞こえた。零の背後にある窓に視線だけを向ければ、外でレオと泉が何か言いあっていた。窓も閉まっているし話の内容は分からないが、声だけは届いた。

・・・・・・彼の事を考えれば、断るべきだ。退屈を受け入れて、続けていくのが正しいはずだ。それでも拒否をせず沈黙を続けるのは、迷っているからだろう。それを理解している自分を、分かっている零を見て、無性にやるせなく腹が立つ。

無言は肯定とみられることがある。
何も答えないのを見て、零はクスリと笑みを浮かべる。肯定と受け取って零は夜月に歩み寄るとそのまま腰に手を回し距離を詰める。グッと腰を抱き寄せ、耳もとに顔を埋める。


「お前が俺から離れない限り、俺がお前の退屈を埋めてやるよ」


何も、答えなかった。肯定も否定も見せない。
そんな様子の彼女を見て、零は増々その不気味で綺麗な妖艶の笑みを深めるのだ。


「――――契約成立」


この曖昧で不確かな、お互いの退屈を埋め合わせるためにお互いを利用し合う馬鹿げた、けれど二人にとっては漸く見つけた出口のような約束が、この先ずっと続いていくなんて。この時は思いもしなかった。


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