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それは悪魔みたいなものだよ



また授業をサボって、図書室に来た。窓辺の特等席に腰を掛け、適当に引っ張った本を片っ端から読みあさる。
本を読み始めて、すでに数時間は過ぎただろう。予鈴も何度か鳴っていた。頬杖をたてながら指でページをめくる。そんな時だった。


「よ、骨喰夜月ちゃん」


気安く名前を呼んでくる男が一人、図書室に現れた。肩まで伸びる癖毛の黒い髪に、血のように赤い瞳を持った、人間なのか疑うほどの美貌を持った、薄笑いを浮かべる男。学院内で最も有名な人物だ。

どうして教えてもないのに名前を知っているのか、そんな疑問さえ浮かばなかった。
夜月は一度向けていた視線をすぐに手元の本に移し替えた。


「何の用だ、朔間零」

「お、俺様ちゃんのことちゃんと知ってたか。さすがだな、夜月ちゃん」

「白々しい。遠くから眺められれば嫌でも気づくだろう。それも、ほぼ毎日となれば余計に」


ペラリ、指でページをめくる。

この男は遠くからこちらを観察していた。視線なんて、たった一人の女子生徒で新設されたプロデュース科の生徒だから、嫌でも注目される。けれど、この男の視線はそんなものじゃない。


「読書の邪魔だ。私は君に興味なんてないよ、帰ってくれ」


視線を本に落としたまま、冷たく言い放つ。しかし、朔間零は此処から立ち去る気は全くないらしい。足音が近づいてくる。すぐ隣で足音は止まった。すると突然腕が伸びてきて、呼んでいた本の上に手を乗せて押さえつけてくる。


「お前も『こっち側』の人間だろ?」

「――――」


耳もとで悪魔が囁くように、その男は言う。
耳もとから顔を離しその男を睨みつけるように見上げ、口端をあげた表情が癪に触って、瞳を逸らした。


「何のことを言っているのか、さっぱりだな」


不機嫌な声で言い放った。
だが、その男は続ける。


「退屈なんだろ」


まるですべてを知っているかのように、見透かした言葉を振りかざす。
唇を三日月型にして、赤い瞳を細めて囁くそれは、まさに悪魔のささやきだ。


「我慢できないくらい退屈で退屈で、生きてる心地なんてちっともしない。何の刺激もなくて、屍体みたいに生きてさ」


退屈。それは私にとって人生の最大の敵であり、これからさき死ぬまで付き合っていかなくてはならない代物の名だ。実に厄介で、一人では解決できない。
片腕が伸びてきて、対照的な白い髪を撫でる。


「俺と”同じにおい”がする」


振り向けば、思っていたよりも近い位置に、魔物のように美しい顔があった。その男は撫でた白い髪の一束を持ち上げ、口づけを落とすかのように口元へ寄せた。同じ赤い瞳が見つめ合う。一方は楽しそうに瞳を細め、一方は不愉快そうな瞳を向ける。

夜月は髪を男から振り払うように、髪を靡かせた。その前に手を引いた男は、残念そうな声を零して距離を取った。男から笑みが消えることは無く、美しい微笑を携えながら見下ろしてくる。
その男に、夜月は不満そうにも同意した。


「確かに、その通りだ。私と君は果てしなく『同類』だろう。だが一つだけ違う。君は他人とは違う人間だと自覚しながら、他者と関わりながら生きることを選んだ。それが君の落ち度だ、朔間零。私は、私が楽しめればそれでいい、他者などどうでもいいのさ」


最後に口端をあげて告げる。


「可哀想に、そんなもの切り捨ててしまえば、その空席の傍らを求めることもなかっただろうに。ああ――――さみしいひと」


その瞬間、まるで豆鉄砲でも喰らったかのように、美しい男は目を丸くした。丸くした赤い瞳は、赤い満月のように美しい。その瞳に、美しく微笑む怪物が映る。
やがて、少しぎこちない微笑みを浮かべながら言った。


「でもさ、一人でいたって結局つまらないだろ。人間一人ひとり違って、個性がある。だから人間ってのは面白んだ。お前はもう、諦めちまったのか?」


夜月は答えなかった。
ただ人間みたいな感情を見せる『同類者』を、真っ赤な瞳が見つめていた。


「だからさ、仲良くしようぜ。こんな出会い、もう二度とねぇだろ。俺たちにとっては」


そう言って手を差し出す美しい魔物は、まるで人間のようだった。


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