目を逸らして曖昧にして
「なあ。おまえ、最近変な奴と一緒にいないか?」
「変な奴?」
ちょうど昼時の時間。その日は天気も良くて、学院の中庭の木陰でレオは作曲を。夜月は木に背中を預けて読書をしていた。そんな時、レオがふと今思いだしたかのように言いだした。
「そう! 夜月を探しに行くとそいつ、いっつもおまえと一緒に居た!」
「んー・・・・・・」
「ほら! あの、えーっと、金髪のさ!」
「金髪・・・・・・ああ」
レオの証言をもとに記憶をめぐって、ようやく最近さらに絡んでくるようになった薫の事だとわかった。
「なーあー! 誰だよあいつ!」
「さあね。ほら、もうすぐ休み時間も終わるし、行こうレオ」
「あっ」
さっさと本を脇に抱えて、夜月はそそくさと校舎のほうへ向かって歩き始めた。レオは慌てて散らかした楽譜を集め、腕に抱えながら後を追う。その間も、レオはしつこく夜月を問い詰めた。
「なあってば! おれ以外に仲が良い奴なんて聞いてないっ!」
「仲良くないってば。というか、レオはいつも私の人間関係を気にしてたじゃないか。これは良い傾向なんじゃないの?」
「〜〜〜〜っ! お、男はダメっ!」
「はは」
それじゃあ私は学院にいる以上、レオ以外とは関係を持てないらしい。此処には男しかいない。まあそれ以前に、持つつもりもないが。
後ろで問い詰めてくるレオを受け流しながら歩いて、校舎の前にある瓦礫の噴水場跡のところまできた。その時、運が良いのか悪いのか、その本人があろうことかいつもの調子で話しかけてきたのだ。
「やっほ〜、夜月ちゃん。また会えて嬉しいよ」
「・・・・・・っ! ・・・・・・!?」
「・・・・・・」
薫は夜月の顔を見るなり甘い笑みを浮かべ、手を振って歩み寄ってくる。傍にいるレオは眼中にないようだ。
そんな薫を見て、夜月またかと面倒そうに視線を知らし、レオは猫のように目を丸くして薫と夜月を交代に見やった。
「それよりどう? デートにでも行かない?」
「行かない」
「え〜、今日もダメなの? それじゃあ、一緒に図書室でも行く?」
「ついて来ようとするな」
夜月は適当にあしらおうとするが、薫はこりもせず粘ってくる。手馴れた手つきで何気なく夜月の肩に手を回そうとしたその時、素早く二人の間に割って入ってきたレオによって引き離され、驚いた薫はピタリと手の動きを止めた。
「夜月に触るな!!」
ガルルルゥ! と、動物のように唸り声をあげてレオは威嚇する。腕をひかれ、そのままされるがままに抱きしめられる。
驚いていた薫は目を丸くするが、だんだん不機嫌な顔になっていく。
「はあ? ていうか君、だれ? 俺と彼女の時間を邪魔しないでくれない?」
「おまえこそ誰だよ! 最近夜月の傍にいっつもいるしっ!」
「君だってよく彼女といるじゃん、今だって。よく校内で見るけど?」
「おれは幼馴染だからいーのっ!」
「へぇー、幼馴染なんだ。なら彼氏じゃないんだし、口出ししないでくれない? いま彼女の事口説いてるんだから、邪魔しないで」
「くど・・・・・・ッ!? 夜月にちょっかい出すなあっ!!」
「ああもう・・・・・・いい加減にしてくれ。私はもう行く」
「あ! 待ってよ夜月ちゃん!」
「夜月〜〜!!」
いい加減、間に挟まれて良いわいを続けるふたりに飽き飽きして夜月はレオの腕からすり抜けそそくさと校舎のほうへ向かっていく。それを二人は追いかけてくるが、その最中もいがみ合いを続けている。深いため息が出る。
後ろの喧騒を聞き流しながら進んでいく中、ふと校舎を見上げた。上階の窓に人影がいて、その人と初めて視線が交わった。その人物を一蹴し、夜月は校舎の中へと足を踏み入れていった。