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透明のひび



「・・・・・・で、なんでついてくるんだ」

「え〜?」


「だって、君がいるから」甘い笑みを向けてくる薫に「授業に行け」と素っ気なく言ってやれば「君だって行ってないじゃん」と薫は不満げに唇を尖らせた。

あの後、薫は教室へは行かずに図書室へ直行する夜月にニコニコした顔で付いてきた。

本棚から数冊本を持ってテーブルに積み上げ、家から持参した紅茶を淹れたタンブラーを傍らに置く。椅子に座って読書の準備が整うと校内に予鈴が鳴り響く。優雅に本を広げる彼女の向かいに、薫はさも当たり前のように席に着いた。
薫は何をするでもなく、ただニコニコとして目の前の夜月を見つめた。そして時折、ページをめくる夜月に言葉をかける。


「ねぇねぇ、今度デートでも行かない?」

「行かない」

「えっ、即答!? ちょっとぐらいいいじゃん、ね?」

「興味ない」


本の活字から目を離さずに受け答えをする。
薫は夜月が誘いを断るたびに「え〜」と声をあげた。それでも薫は、一切こちらをみない夜月に熱心に話しかける。


「学院から少し歩いた場所にカフェがあるんだ。ブックカフェだから他の場所よりも落ち着いてるし、きっと気に入ると思うよ」


ペラリ、ページをめくる音が応答する。


「そこのカフェ、メニューは少ないけどどれも美味しいんだよ。チーズケーキとか・・・・・・でも特に、ふわふわのパンケーキがお勧めなんだ」

「・・・・・・」


一瞬だけ、夜月の動きが鈍った。いままで一度もこちらに目を向けなかった夜月が、一度だけちらりと薫を見やった。その視線はすぐに元に戻されてしまったが、少なからず進展があったことに薫は笑みを浮かべる。


「もしかして、甘いものが好きなの? それなら美味しいところ、もっと知ってるよ」

「・・・・・・・・・」


「俺も甘いものが好きなんだ〜」嬉しそうに言葉を続ける薫とは対照的に、夜月は面倒くさそうに眉間をしわを寄せて、本からも目を逸らした。居心地が悪そうに。


「ね? 俺と一緒に行かない、夜月ちゃん?」


両肘をついて、薫は下からのぞき込むようにして夜月をみつめた。
断っても反応を返さなくても引き下がらない薫に少しばかり戸惑いを覚えた。この状況をどうにか打開したくて、仕方なく言ってしまった。


「気が向いたら、行っても良い・・・・・・」

「・・・・・・!」


そう答えた時、薫は驚いた顔をして、次には嬉しそうな顔をしていた。

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