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溜息が君を撫でるだろう



その日の登校は、たまたまレオがいなかった。たまたまと言っても、作曲に没頭して深夜まで起きていた挙句寝落ちし、目覚ましをかけ忘れて寝坊をしただけだが。レオの慌てた電話を受け取り、夜月は一人で学院への道を歩いた。
するとこれもたまたま、この間の好青年とばったり鉢合わせてしまった。


「おはよう、また会ったね」


薫は夜月と目が合った瞬間、ニコニコと笑顔を浮かべて手を振った。
そんな薫を見て夜月はさして興味を示すこともなく、挨拶もせずに再び学院への道を進み始めた。薫は足早に夜月の隣に駆け寄り、必然的に二人で登校することになる。


「相変わらずスルーするね、君。そういえば、いつも君と一緒にいる子はいないの?」

「レオなら寝坊だよ。それしても、よく知っているね。さほど君とは関わっていないだろ」

「ほら君、学院では目立つから」

「・・・・・・ああ、そうだったね」


中学でも何かと目立っていたが、此処ではまた違った目立ち方をしている。やはり学院唯一人の女子生徒というのは浮いてしまうし、視線も集まってしまう。
まったく、迷惑な話だ。

学院の校門にたどり着き、夜月と薫は生徒証を取り出す。先に薫が生徒証を校門の受付にいる警備員に見せ学生であることを証明し、校内へと入っていく。続けて夜月も生徒証を見せるが、警備員は首を横に振って校内に入れさせない。新設プロデュース科のことは、学院の関係者くらいしか知らない。警備員にはまだ伝わっていないのだろう。

面倒だな。警備員を前に夜月はいかにも面倒くさそうな顔をした。


「この子、ウチの生徒ですよ。新設予定のプロデュース科の」


そっと背後から顔をのぞかせた薫が口添えをする。夜月は少し驚いた様子で薫を見上げた。
突っかかるような物言いではなく丁寧に対応する薫に好印象を与えられたのか、警備員は納得して夜月を通した。
薫と夜月はそのまま校舎へと向かって歩いていく。


「よかったね、入れてもらえて。やっぱり学校の関係者以外だとあんまりプロデュース科のこと知らない人がいるんだね、毎朝これだと大変そう」

「・・・・・・君、何か欲しいのか」

「え? えっと・・・・・・何の話?」


薫は笑顔を浮かべるが、夜月の言っている意味が解らず、困ったように眉を下げる。


「見返りだよ。私に恩を着せようとする人間は基本的に見返りを求めてくるからね」


まあ、今回は助けられたんだが。
じっと見上げれば、薫は焦って否定する。


「えぇ? そんなつもりないよ! ただ君を助けてあげようと思っただけ、それ以外何もないよ。まったく、ひどいなぁ」

「そうなのか? 欲がないのはそれはそれでどうかと思うぞ。人間、欲深い生き物じゃないか」

「いや、それはそうだけど・・・・・・」


酷く不思議そうに目を丸くする夜月に呆気にとられ、薫は言葉に迷う。


「まあ良い。助かったのは事実だ。お礼に君の『願い』を叶えよう」


「借りは貯めておくと後々面倒だ」この時、薫にとっての彼女の第一印象が少しばかり変わった。クールな女の子という印象なのは変わらないが、割と性格のほうも浮世離れしているらしい。


「んー・・・・・・じゃあ、お礼に名前教えてよ」

「名前?」

「そう! 俺、君の名前まだ知らないからさ! ね?」

「・・・・・・そんなくだらないもので良いのか」

「くだらなくないよ、俺にとっては死活問題。こないだは名前を聞く隙すらもくれなかったからね」


「ね? いいでしょ?」少しかがんで下からのぞき込むように覗き込まれる。首を傾げて問いかける薫に、夜月は心底理解ができないという表情を浮かべる。沈黙の後、夜月はポツリと呟く。


「・・・・・・骨喰夜月」


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