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満ちることのない杯



退屈な授業にも飽きたある日、夜月はもはや授業に参加することをやめた。けれどレオがいるからと学院には通い、どう暇をつぶそうかと考えた果て、図書室に籠ることにした。此処の図書は割と多いと聞いた。しばらくは暇をつぶせるだろう。

図書室へ向かうべく廊下を一人歩いていた、その時だった。


「ねえ、そこの君! 君、女の子だよね? うちの学校女子生徒なんていたんだ〜」


背後から呼び止められて振り向けば、そこには如何にもチャラそうな男が立っていた。ニコニコと笑みを浮かべて話しかけてくる。こういう男を、好青年とでもいうのだろう。
黙って目の前の男を見上げていれば「ん、なぁに?」と視線に気づいて笑いかけてくる。


「あ、俺は羽風薫。よろしくね」

「何か私に用でも?」

「うーん、じゃあ今から一緒にデートしない? 近くに美味しいカフェがあるんだ〜」

「今は学校なんだが」

「抜け出せばいいんじゃない? まともに授業受けてる人のほうが珍しいし。ていうか、今授業中なのに教室にいない君が言うセリフかなあ・・・・・・」


「まあ、もっともだな」腕を組みながら頷く。


「まあ、抜け出すのはそれはそれで面白そうだが、遠慮するよ。さして君に興味もないし」

「え」

「それじゃあね」


「え、ちょ、待って!?」さっさと会話を終わらせて図書室への道を進んでいく。背後ではそれを止めようとする声がしたが、夜月はそんなのを無視していく。

そんなことがあったのが数時間前の事だ。

あれから夜月はずっと図書室に籠り続けた。図書室にある本を一つずつ手に取り、結末が既に想像できてもやめずに読み続ける。
そんな時、滅多に人が訪れない図書室の扉が開いた。


「あれ? 先客が居たんですね。こんにちわ」


癖毛の髪をした眼鏡をかけた男子生徒が柔らかい笑みを浮かべた。
その手には大量の本を詰め込んだ段ボールを抱えていて、図書室にあるテーブルにそれを置いた。その音からも相当重いのが伺える。


「邪魔だったかい?」


段ボールから本を出す様子を背から見ながら声をかけた。


「いえ、平気ですよ。ただガサガサして煩いかもしれません。本の整理などしないといけないので」


「俺、図書委員なんです」少し申し訳なさそうに微笑みながら、その男子生徒はそう付け足した。
夜月は気まぐれに片手に持っていた本を閉じて、椅子から腰をあげた。


「手伝うよ。ちょうど退屈してたところだ。少しは暇つぶしに時間もつぶせるだろう」

「本当ですか? ありがとうございます! 俺は青葉つむぎです。よろしくお願いします、夜月ちゃん」


嬉しそうに微笑まれながら名前を呼ばれる。その響きは耳になじまず、つい眉を潜めてしまう。


「・・・・・・何故名前を」

「同じクラスですよ、俺たち」

「そうか、知らなかったよ」

「あはは・・・・・・」



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