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迷宮にて君を待つ



レオは1人、暗い部屋の中でベッドの上に膝を抱えて座っていた。夜月はいない。この時間帯では夜月は学園に通っている。夜月が来るのはいつも学校終わりの夕方からだ。しかし以前は毎日来てくれていたが、最近は数を減らしていた。

何気なく聞いたことがあったが、なんでも今学園が忙しいらしい。それ以上は知らない。夜月は必要以上に学園での話題は出さないし、自分も聞いたりしなかった。

抱えた膝に額をつけて丸くなる。ふと携帯のバイブレーションが鳴った。出ることは無かったが、何度も誰かから電話がかかっていた。相手は出ないことを諦めたのか何度目かで鳴りやみ、最後にメールを受信して携帯は鳴り止んだ。

すると、大きな音を立てて玄関の戸が開いた音が聞こえた。ドタドタと足音を立てて、何か慌てているようだった。足音が軽いことから、ルカだと分かった。学校に通っているはずの時間帯だが、慌てて帰ってきたのだろう。


「おにいちゃんっ!!」


声を荒げて悲鳴のように扉の向こうで叫ぶ。開かない扉を何度も強く叩く様子から、何事かあったのだと察せられた。それでも出ることも答えることもできず、レオは膝を抱える腕に力を込めた。


「おにいちゃん開けて! 大変なんだよっ!! おねえちゃんが・・・・・・!」


何度も呼びかける声色は、だんだん泣き声に変わっていって、不安に駆られているのが分かった。


「おねえちゃんが・・・・・・っ、階段から突き落とされたって・・・・・・っ!!」


そして、放たれた言葉に呆然とした。


「――――・・・・・・え」


頭が、真っ白になった。何を言われたのか、理解ができなかった。悲鳴に似た声で叫ぶルカの声も遠のいて、まるで世界が遠のいていく感覚を覚えた。

そして瞬時に理解する。


「ッ――――!!」


全身から血の気が引いた。全身身の毛がよだち、ゾワゾワとした感覚に襲われた。指先まで冷え切って、自分がひどく青ざめているのだと理解できた。

「さっき、連絡が来て・・・・・・いま、病院に運ばれたって!」泣いているのか、声が震えていた。微かに鼻をすする音も響く。

夜月は1人暮らしだ。頼れる親戚はいなかった。だから何かあった時には自分の家に連絡が来るようになっている。混乱する頭の中で、なんとか繋いだ1本の冷静の糸を頼りに思考する。

ふと、放り投げられた携帯に目が行った。何度も電話が来ていた。携帯をつかみ取り画面を見れば、着信相手の名前に泉の名前が並んでいた。最後の1通のメールも泉のものだった。震える手でメールを開けば、簡潔な文が並んでいた。

『夜月が学校の階段から落ちた。目撃者によると突き落とされたみたい。アンタが入院した病院に搬送された』

あの日の海のことを、思い出した。

早く行かないと。早く会いに行かないと。もしかしたら、死んでしまうかもしれない。もう会えないかもしれない。どこかへ、行ってしまうかもしれない。そんな恐怖心に襲われた。

震える足で立った。震える身体を抑えて扉の前まで行く。夜月を失う恐怖とトラウマの恐怖に震える。ゆっくりとドアノブに手を伸ばした。息が荒くなる。外へ出ないと、病院に行かないと、夜月のところに行かないと。固く目を閉じて震える身体を抑えようとする。そしてドアノブに手を伸ばして――


「――――、ッ」


掴むことは、できなかった。

伸ばした腕を掴み、胸元へ引き寄せる。そして扉の前で膝を崩した。背中を丸めて、蹲った。身体は相変わらず震えていて、足がすくんで動けなかった。

「おにいちゃん・・・・・・? ねえ・・・・・・!」部屋を出てくる様子もないレオに何度も呼びかける。それに応える勇気も、外に出る勇気も、足が絡めとられて動けなかった。


「夜月・・・・・・、――――いかないで」


――おれが守るって、約束したのに・・・・・・。

此処から出ることは、叶わなかった。

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