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呆れるほど鮮やかに



「今度、『S2』に『Ra*bits』が出るらしいのう」

「ラビッツ?」

「仁兎なずな率いる新生ユニットじゃ」

「ああ、なずなの・・・・・・どうしてそれを私に?」


『TrickStar』に助力するうえで、回しておかなければならない手は多い。零は当たり前ながら、夜月も必然的に協力している。元々、零が彼らに革命を託すならそれに手を貸すつもりであった。

夜月はこれから起こるであろうと事を細かく分析し、仮定し、予測し、その動きをシナリオに描いた。夜月は頭脳明晰だ。いや、それだけでは表せない。天才という部類に入り、その頂点をも飾るであろう存在だが、彼女の力はそれ以上だ。およそ人間の域を超えている。そんな彼女にとって、未来予測にも似た『シナリオ』を描くことなど、造作もない。


「一度おぬしの姿を見たらしくてのう。まあ、途中で見失ってしまったらしいが。それで我輩のところには来るであろうと予想し、伝言を頼んできたというわけじゃ」

「ふうん・・・・・・」

「見に行ってみてはどうじゃ? 新しいユニットでの舞台を、お主に見てもらいたいのだろう」



* * *



そんな話をしたのが、確か数時間前。

夜月は言われるがままに講堂へ訪れた。人目に付かない影から、壁に背を預けステージを見上げる。今まで姿を見せないようにしてきたため、どのライブにも足を運んでいない。唯一プロデュースをしていた『UNDEAD』も活動休止していたため、ライブ事態はしていない。だから、今日のライブは夜月にとって久しぶりに見るものだった。

たった今、パフォーマンスをしているのは対戦相手の『紅月』。伝統芸能を重んじる和風ユニット。技術を極めた学院No.2。小手先ではない実力で見る人を圧倒させる。リーダーは生徒会副会長でもある蓮巳敬人。和の伝統芸能を基調としたパフォーマンスが持ちで、個人個人の実力が高く、派手さはないが各々が非常に完成された動きを見せる。ファンサービス等もあまり行わないが、その硬派さが人気を集めている。

熱狂する観客がペンライトを振るう。ペンライトの色は、『紅月』のテーマカラーである赤一色に染まっていた。
素晴らしく完成されたパフォーマンスだ。積み重ねてきた経験が伺える。

幕が下がり、紅月のライブが終わる。途端、大勢の観客はぞろぞろと退出していく。残ったのは、友人のライブを見に来た『TrickStar』の明星スバルと転校生、そして密かに此処へ来た夜月の三人だけだった。
これが今の夢ノ咲学院の現状であった。

空っぽにも等しい中、『Ra*bits』は来てくれた友人のために精一杯のパフォーマンスをした。彼らの歌が、行動の中で反響する。
まだ経験も浅く、技術も未発達。埋めなければならない穴も多い。それでも彼らは輝いていて、可愛らしい笑顔で歌って踊った。

あんななずなの笑顔を見たのは初めてだった。去年よりよっぽどいい。
ああ、なずな。君はそんな表情で、笑えたんだね。

講堂にたった二つだけの拍手が響いた。夜月は拍手をしなかった。拍手をすれば、その音で存在がばれてしまうから。夜月は心の中で喝采を送り、彼らに賞賛を送った。



* * *



「夜月ちんっ!!」


こっそり行動を出た夜月は、先ほどまでパフォーマンスをしていたなずなによって呼び止められた。衣装を着たままの姿を見るからに、急いで追ってきたのだろう。
なずなは息を整えてから笑顔を見せる。


「やっぱり来てくれたんだな! 確信は無かったけど、伝えといてよかった!」


ふふん、と自慢げに笑う。
本人の言う通り、夜月が来てくれる確信はなかったのだろう。けれど伝えるだけ伝えておこうと思い、なずなは零に伝言を預けた。

戻ってきてくれて嬉しい、となずなは喜ぶ。夜月は否定する。まだちゃんと復帰したわけではないからだ。それでも嬉しいと、なずなは続ける。


「なあ、おれたちの・・・・・・『Ra*bits』のライブは、どうだった?」


少し不安そうで、でも微笑を携えながら伺う。眉尻を下げ、ビー玉みたいな赤い瞳が夜月を映す。額に滲んだ汗が顎を伝って落ちた。その生理現象が、人形ではないことを告げている。


「うん。笑顔の素敵な、すばらしいライブだったよ」


「ありがとう、なずな」新しい体制をとりはじめた学院で久方ぶりに見たライブは、本当に素晴らしかった。停滞したこの学院で、確かに輝いていた。芽を、出していた。
赤い瞳が光って涙が浮かぶ、なずなはそれをぐっとこらえ、ニカッと笑顔を見せる。

この人生で得らるとは思っていなかった、我が友よ。君が美しいと、君が好きだと語ったなずなの笑顔は、昔よりもずっと綺麗になったよ。


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