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いつまでもいつまでも不幸せ



「・・・・・・ふぅん。本気で言ってるんだ、『王さま』?」


夕方頃、『Knights』のライブの終わりに泉とレオそして夜月は廊下で対峙していた。流れる空気は重くのしかかる。夜月は一歩引いたところで向き合う2人を見つめた。

あの日を絶頂期に『Knights』はシナリオ通りにどん底へ落ちて行った。連勝を繰り返す『Knights』は最強と共に身内からも外からも恨みを買った。あの時点でかなりの恨みを集めていた。徐々に『Knights』の立場が危うくなっている。


「わかるよ。そこそこ長い付き合いになってきたもんねぇ、本音と嘘の見分けぐらいはつく。本気で、よりにもよってこの俺に、真顔でそんなことを言うんだ?」


静かな廊下に、冷静な泉の声がひどく響く。「さっきのライブで大敗したのは、俺のせいだって、『王さま』・・・・・・?」泉はきつくレオを睨みつけた。レオは無言で泉を見つめ返していた。


「・・・・・・『れおくん』って呼んでくれなくなったな、おまえも」


その声色は何処か落胆していた。「おまえさえも。でもまぁ、他の連中と比べればすっごい長持ちしたよな。流石はセナだ、誰よりも努力家だし実力も才能も人並み以上にある」寂しそうに笑みを浮かべながらレオは続けた。「でも、おまえじゃ駄目だ」泉の眼光が鋭くなる。


「おまえでも駄目だった、じゃあどうすればいい? どうしよう? わかなくなっちゃったなぁ、わははは!」


可笑しそうに突然笑いだす。「セナにはわかる? おまえは賢いもんなぁ、いつでもおれに大事なことを教えてくれた!」声色を上げたまま続ける。


「そんなおまえを信用して、最後にこれだけ聞くよ・・・・・・どうしてだろう?」


「なんで、こんなことになっちゃったんだ? おれたちは、おれたちの青春は・・・・・・?」その言葉は、その疑問は、泉にも強く突き刺さった。間に入らず黙って聞いている夜月もそっと視線を落とす。

「・・・・・・だからさぁ、その反省会をしてるんじゃん。議論から逃げないでよ、他人のせいにばかりしないでよ」泉は思い息を吐くとともに言葉を続ける。「ううん、悪いのはぜんぶ俺だって決めつけるような言い方はやめてよ」それは、泉からの心からの言葉だったのだろう。

泉から零れだしたのは今までため込んできたもの。泉もレオの変化に責任を感じて、せめて自分だけは最後まで付き添おうと思っていたのだ。


「いま、あんたはなんて言った? 俺のせいだって? 俺は努力したよ・・・・・・! あんたが、あんたの作る曲が好きだったから! 俺以外のみんなにも、世界中のみんなにも好きになってもらえるように一生懸命やった! 精一杯歌った! 仲間だったやつらがみんな愛想をつかして消えていくなか、俺だけが!」


力任せに、感情があふれるままに泉は珍しく声を荒げて言い放った。「なのに『れおくん』の頭の中にあるのは新曲のことだけ! その曲も、近頃何なの?」最近のレオの曲は、怨みや痛みに濁った陰鬱な曲ばかり。以前までの明るく輝いた曲は姿を消していた。それに加え、複雑な技巧を凝らして難解だ。


「こっちが尋ねたいよ、なんでそんな風になっちゃったの? それも、俺のせいだって言うの?」


泉の声が沈む。

それをレオは黙って、真顔のまま聞いていた。「『ううん、おまえは何も悪くないよ、ごめんな。仲直りしよう、セナ』って、おれが今さら言うとでも?」レオから出た言葉なのかと疑うほど、それは酷く冷めていた。


「あぁ、おまえのせいだろ・・・・・・ぜんぶ! おれはさぁ、おまえの夢をかなえてやろうと思ったんだよ! もう、おれの曲を好んでくれるのはお前だけだったから!」


レオも堪らず感情のままに声を荒げた。今のレオにとって、泉だけが救いだったのだ。「おまえが輝いてなきゃ、おれはもう明るい曲は作れない! でも近頃負け続けでプライドの高いおまえは傷ついて怒ってるから! 唯一、おれに届く光まで! 憎しみに濁ってる、それなのに明るい曲なんか作れるか・・・・・・!」レオはそう泉にぶつける。


「限界なんだよ、もう! ふざけんなよ、おれのために笑ってくれよ! おまえだけは!そうしてくれないと、おれはもう・・・‥壊れる! 錆びて、刃こぼれだらけでもう駄目だ!」


「おまえが、おれの鞘が役目を果たさなくなっから!」レオの曲を、武器と称した。的を射ていた。気に入らなかったかつての仲間を切り伏せてきた。それを好んだ泉の願いを叶えようとした。その泉は、確かに鞘の役割を負っていたのだ。

「何の話? 確かに最近、きつく当たりがちだけどさぁ・・・・・・俺はあんたが曲を作るために消費される栄養素か何かなの?」それを本人が理解しているかは別だ。そもそもこれは、他人の頭の中だけで形成された役割であり世界なのだから。


「俺はあんたの奴隷でも餌でもない・・・・・・俺はさぁ、ずっとそう言いたかったんだよ?」


けれど我慢をした。良いように利用されているだけと気づきながら、目をそらした。「あんたが友達だったから、生まれて初めての、対等で、大事な・・・・・・」いつもうんざりするような目で見られ、冷たくあしらわれていた。けれどそれはつまるところ愛情の裏返しで、泉も応えてくれていたのだ。

「おれたちはおしまいだ!」とレオが叫ぶ。このチェスは積んでいる。『Knights』が舞続ける理由は簡単だ。多くをなぎ倒したせいで、全方向から怨みを買い続けた。だから観客の投票で結果を決めるドリフェスで点数を稼げない。客は校内の生徒で構成されている。『Knights』はそんな彼らから嫌われている。


「・・・・・・そういう状況に追い込んだのも、俺のせいだって言いたいの?」

「そうだろ? おまえが望んだんだ、おれはみんなと一緒に楽しく歌えればそれで幸せだったのに!」


天辺を望んだ泉のために、その道を作ろうとした。しかし結果はこれだった。どん底に落ちる道しかなかった。「夢なんか見なきゃよかった! ごめんなぁ、セナ! 弱くて!」頂点を目指したのが罪の訳ではない。レオにも泉にも、どちらかに非があった訳ではない。単純に、陰謀の渦に巻き込まれてしまっただけのこと。


「・・・・・・れおくん」

「ひぐっ、もう今日は帰る! 何を離してるのか分かんなくなってきたから!」


「ちょ、待ってよれおくん!」泣き出してしまったレオはそのまま踵を返して走り去ってしまう。泉の言葉も聞かず、あっという間に目の前からいなくなってしまった。

取り残された泉と夜月は去ってしまったレオの背を見つめる。泉は気まずそうにして夜月に向き直った。


「ごめん、夜月・・・・・・こんなのに付き合わせて」

「泉が謝ることないよ」


泉は何も言えなくなってしまった。泉なりにレオのことを心配しているし、責任も感じている。だからどうにかしようとしても、結局できずに、今日のようにぶつかってしまった。「俺には、もうれおくんのことが分からないよ・・・・・・」泉は視線を落として呟いた。


「行ってあげてよ。夜月の言葉なら、あの馬鹿も聞くでしょ」


フッと笑う表情に覇気はなく、憂いの影を帯びていた。夜月は頷き、泉の言葉に従ってレオの後を追いかけた。ひとり廊下に残された泉は、顔を伏せ、重く息を吐きだしていた。


走ってレオの後を追えば、レオは学園の校門で立ち止まっていた。袖でゴシゴシと目元をこすって、無理やり涙を止めているようだった。夜月はゆっくりとレオに近づき「レオ」と声をかける。呼ばれて振り向いたレオは驚いた顔をしていた。何度も擦ったせいで目元は赤くなっていた。


「そんなに擦ると目元が腫れて――」

「ほっといてよ!!」


パチン、と乾いた音が響いた。

何気なく、手を伸ばした。それをレオは力任せにはじき返したのだ。乾いた音が響き、伸ばされた手をはじき落としたのだと理解すると、レオは途端に表情を青ざめる。それとは引き換えに、夜月は思ってもみなかった行為に目を丸くして弾かれた手を眺めていた。


「あ・・・・・・夜月、おれ・・・・・・ごめっ・・・・・・」


真っ青な顔でレオは譫言のように呟く。必死に止めようとしていた涙もすっかり引っ込んでしまったようだ。そんなレオに夜月は特に気にした様子もなく、もう一度レオに手を差し伸べた。


「一緒に帰ろう、レオ」

「・・・・・・うん」


素直にうなずいて、控えめに手を取る。叩いて少し赤くなってしまった手の甲を、謝るように指で撫で、キュッと手を握った。先ほどので血の気が引いたのか、レオは落ち着きを取り戻していた。慎重に手を引き、2人はいつもの帰り道を歩き出した。


――その数日後、レオは学園から姿を消した。

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