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うしなってうしなってうしなっても



『チェックメイト』の当日。泉はいつもよりピリピリしていた。大事なライブであるのに加え、自分の陣営は即席の助っ人で固めた寄せ集め。いくら助っ人に呼んだ嵐や凛月がそれなりに信頼できるとしても、不安はぬぐえない。またレオが助っ人について泉は誰かも知らない。不安要素が大きかった。

一方レオは、ライブの下準備を進めようとしていた。


「夜月」


誰もいない図書室で本を読んでいると、そこにレオが現れた。レオは少しすっきりした顔をしていた。けれど悲しそうで、笑みを浮かべているのが痛々しく感じた。

「おれ、いつもセナと夜月に守られてたから、それじゃダメだって思って、ひとりで聞いてまわったんだ」レオは穏やかな声色のまま話し続ける。レオと名前を呼んだが、言葉が止まることは無かった。


「おれ、みんなに聞いて回ったよ。『おれのことどう思う?』って、『おまえにとってオレはなんだ?』ってさ」


友達だ、仲間だ、大好きだって言ってくれたかつての仲間もいた。けれど言葉は信用ならない。口では何とでも言える。だから選択を迫ったのだと、レオは語る。「おれのことが大好きで、仲間に、友達になりたいなら・・・・・・おれの楽曲は二度と使わせない。ただし、おれの敵になるなら、いくらでも無料で楽曲を使っていい」レオは顔を上げ、無理やり笑って見せた。


「みんな迷う素振りもなく、満面の笑顔で、おれの敵になるってさ!」

「レオ・・・・・・」

「笑えるだろう。おれ、そんなことにも気づかなかったんだ! おっかしい、愛されてるって思いこんでた。みんなと仲良く楽しい青春を過ごしてるって!」


レオはそう言って大笑いする。静かな部屋に、レオの痛々しい笑い声だけが響いた。だんだん無理やり笑顔を繕うこともできなくなっていって、表情が歪んでいく。


「みんな、おれじゃなくておれの曲が好きだったんだ・・・・・・」


「夜月も、こんな思いだったのかな・・・・・・」いつのことを指しているのか、夜月には分からなかった。少なくとも、自分は今のレオのように絶望の淵に落とされて傷ついたことは無かった。そもそも周りに誰もいなかったのだから、当たり前だ。


「おれさ、次は『チェス』の奴らに会いに行くよ」


再び笑みを繕ったレオは自分に言い聞かせるように言った。「交渉しに行くんだ。大丈夫、ママに頼んであるから」斑は顔が広い。仲裁を取り持つのには良い人材だ。


「出演料は規定通り支払うから、舞台に立たないでほしいって。不戦敗になってくれって、持ち掛けてみる」


わざわざそんなことをする必要はない。人数は多ければ手狭にはなってしまうが、不戦敗を持ち掛けるだけの理由は無い。レオがわざわざ傷つきに行くようなものだ。応えなんて簡単に予想できる。それは、今のレオにも容易く予測できただろう。

夜月は椅子から立ち上がろうと机に手をついた。しかし腰を浮かしたところでレオがそれを止めた。


「夜月は此処で待ってて!」


夜月はひとりで行くと言い張るレオを見つめる。最近のレオは必要以上に夜月が動くことを嫌う。だから今回もここで待っていろと言うのだ。「終わったら迎えに来るから。そしたら、一緒にステージに行こう」レオは必死に笑顔を取り繕う。夜月は拒否することができず、上げた腰を下ろした。


「ありがとう、夜月。行ってくるな」

「ああ・・・・・・待ってるよ、レオ」


この先の未来に目をそらし、夜月は壊れかけのレオを見送った。

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