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錆ゆく心



その日、泉はいつもの場所で歌の練習をしていた。特にすることも無い夜月も泉の練習に付き合い、歌っている泉の歌声を聞きながらベンチに座っていた。

泉が言うに、今回の曲は難曲らしい。なんでもレオが作る曲は泉のパートだけいつも難易度を高めに設定してくるらしく、習得するのに一苦労だという。やれやれと話すが、努力家で常に高みを目指す泉は何処か満足げだった。

黙って歌声を聞いていると、見慣れた猫がそばに寄ってきた。人懐っこい猫を抱き上げ、膝にのせて撫でていると突然レオの声が降ってくる。


「セナ〜、音程が乱れてるぞ」


驚いて肩を揺らした泉は歌うのをやめ、声の下法を勢いよく振り返る。同じように夜月も視線を向けると、レオは茂みの中から突然姿を現した。


「レオ、服に泥や葉が付いてるよ」

「わっ、ほんとだ! まあいっか!」


そのあとはいつものように泉のお小言が始まった。リーダーの自覚や責任などを語ると、突然レオが黙り込むので、泉は少し心配になりながらレオの様子を伺う。「何か元気ないけど、調子でも悪いの?」とを尋ねれば「セナは優しくするタイミングが分かりづらいな!」とレオは大笑いした。


「ごめんな、おれみたいな適当なやつがリーダーで・・・・・・? セナには苦労をかけっぱなしだよな?」

「はぁ? 何を言ってるわけ、前より全然マシだから」


以前の『オセロ』や『バックギャモン』の時代は腐っていて、やる気のない生徒たちのたまり場で、努力をする人がそこに埋もれていた。しかし最近は分裂が続き、ライブで連勝するなど、泉にとっては充実感があった。


「そっか・・・・・・セナもそうなのか、ふぅん・・・・・・?」


泉の言葉にそっと目を細めて、含みのある相槌をした。何かあるなら言えと泉は言ったが、レオは「べっつに〜?」と笑ってごまかす。

「ただ何か・・・・・・疲れたよ〜、夜月〜」ぐったりと肩を落とすとそのまま夜月に駆け寄っていつもの調子で抱きしめる。夜月は拒むことなくいつものことだと片付けた。膝に居た猫は逃げ、泉の横にちょこんと座る。


「あ、セナ。いつからリトル・ジョンと仲良くなったの?」

「はい? リトル・ジョン?」


猫に視線が行ったレオは夜月を抱きしめるのをやめてそちらに向き直った。「おまえの横に居るだろ、猫! こいつの名前で〜、でっかいけどリトル・ジョン!」そう言ってレオは指さす。泉が視線を下ろし猫の姿を確認すると、びっくりして飛びのいた。


「こいつ、いつから俺の横に・・・・・・?」

「わりと泉の周りをうろちょろしてたよ。私の膝に居たのも気づかなかった?」

「セナの歌声が気に入ったらしくて、踊るみたいに身を揺すってラブリーだった! あぁ、湧いてきた湧いてきたインスピレーションが! 久しぶりの感覚!」


レオはテーブルに紙を広げペンを持ちスラスラと五線譜を埋めていく。「どうもスランプ気味だったから嬉しい!」と楽し気に作曲していく。「スランプ? 勘弁してよねぇ、クソ忙しいんだから最近」それを聞き泉は眉を吊り上げた。

今の『チェス』は分裂状態で、泉とレオはそのなかでも小規模ではぐれものの集まり。勝ち残っていくためにはレオが作る曲が必要だった。「あんたの楽曲っていう武器が無ければ、かつての身内すら太刀打ちできないよぉ?」それを聞くと、レオは作曲の手を止めて「武器・・・・・・?」と目を丸くした。


「わはは! 言い得て妙だ。いつかおれの曲に歌詞をつけてくれない? セナの力が加われば無敵だ〜、史上最高の傑作が仕上がるかも!」


楽しそうに声を上げるレオに泉は「だから大忙しなんだってば」と呆れたように繰り返す。ここ最近は毎日のようにライブが繰り返され、かつての仲間との殺し合いが続いている。泉としては爽快を感じるのと同時に、意味もなく戦い続けることに少し気が滅入っていた。


「なにか目標があればいいんだけど。周りの連中まとめてぶっ倒して、本当に天下とっちゃう?」


泉はそう言ってレオに聞いてみるが、レオは猫を抱き上げてはしゃいでいて、こちらの話を聞いていないようだ。「こぉら、ちゃんと話聞いてよ。まったく」腰に手をつきため息を落とす。夜月はいつもの光景を目の前に、一笑を零した。

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