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廃墟となった学校にひとまず身を寄せた夜月たちは、つかの間の休息を各々とることになった。

夜月は一人、教室にいた。窓に近い机に腰を下ろして、ぼんやりと赤い空を見上げていた。しばらくそうしていると、足元から「フォウ!」という、聞きなれた鳴き声が聞こえた。視線を下ろすと、そこにいたのは白いモフモフとしたフォウだった。


「やあ、キャスパリーグ」

「フォウ!」


小さな体を持ち上げ腕に抱えれば、フォウはスリスリと頬に擦り寄ってくる。その仕草がまるで心配した、と言っているように見えた。「フフ、君が”彼”を呼んだりして」がれきに埋もれた時のことを言えば、フォウはぶんぶんと首を左右に振って否定する。それが面白くて、また笑みを零した。


「よっ、ディーア」

「クー・フーリン」


「それは?」現れたキャスターの手には、魔力が込められた石が握られていた。それについて問いかけると「嬢ちゃんが下準備をしててな」と答える。おそらくオルガマリーだろう。あの子はとても真面目だ。


「なにか心配事か?」


窓側に背を預けてキャスターは言う。「まあ、そんなところね」と答えれば「へえ、例えば?」とさらに問いかけを重ねる。「大聖杯。そこには、セイバーとアーチャーがいるのでしょう?」キャスターが話した内容を確認するように、聞きなおす。キャスターは「ああ」と頷く。

「アーチャーが気がかりか?」その言葉に「それは極めて個人的な、私の問題だね」と夜月はクスリと困ったように笑う。


「私はそこまでヤワじゃないつもりよ。それくらい、自分で折り合える」

「じゃあなんだよ」


キャスターが、クー・フーリンが思いつくことと言えばアーチャーのことぐらい。それを否定するなら他には何が、と問う。夜月はポツリと「セイバー」と呟いた。


「マシュにすべてがかかっていると言ってもいい」

「ああ。あの盾の嬢ちゃんには踏ん張ってもらわねぇと困る」


「宝具開放もできていないのに」セイバーは強大だ。騎士王・アーサー王の伝説は、知名度が高い。ゆえに、サーヴァントの力は強大になっていく。それを、あの聖剣の宝具を、マシュの盾が受け止められるかどうか。今のところ、宝具の力が引き出せない状況では不可能だろう。


「そこは嬢ちゃん次第だな。此処でダメなら、そこまでってことだ」


素気ない、冷たい言葉。それでも真実を言っている。此処でダメならそこまでなのだ、結局のところ。マシュが、マシュとマスター・立香がどこまで行けるか。彼ら2人にすべてがかかっているのだ。少なくとも、此処特異点Fでは。


「此処はまるで地獄ね」


赤に染まった冬木を見詰め、呟いた。


大聖杯を目指せ



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