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「・・・・・・――――ん」


意識が浮上し、脳が徐々に覚醒していく。下ろした瞼をゆっくりと持ち上げ、数度瞬きを繰り返す。ぼやけた視界が少しずつ鮮明になっていく。
肌にねっとりとした生温かい風と、それが運ぶ焦げた臭いが鼻につく。

地べたに両手をついて上半身を起こす。体を起こすことで、寝起きのような意識もはっきりとしていく。夜月はそうして、辺りを見渡した。

目の前には、見慣れた街が燃え上がる世界が広がっていた――。

呆然とした。目を見張った。目の前に広がる光景を、ただ見つめていた。
変わり果てた街。いつかの災厄が止めどなく広がったような世界。燃え上がる業火。ああ、そうだ。これは、まるで世界の終りのような光景だ。


「なんで・・・・・・」


何故、街はこんなにも変わり果ててしまった。
何故、私は此処にいる。

立ち上がって周りを見渡す。

此処は確かに冬木市だ。間違えるはずがない。何度も見て、何度も歩いて、何度も生きてきた街なのだから。しかし、なぜ私は此処にいるのだ。カルデアで爆発に巻き込まれて、意識を手放した。なのに。

そこまで至ったところで、夜月は自分が酷い重傷を負っていたことを思いだす。反射的に腹部に手を当てる。痛みもなければ、服は血で染まっても破れてすらいなかった。傷は完全に治っていた。最初から怪我など負っていなかったかのように。


「まさか――」


意識を完全に手放す直前の、あの甘い花の香り・・・・・・。
微睡みの中、確かに見たあの足下・・・・・・。
ならば、この傷はきっと。

ジャリ――

地べたを踏みしめる砂の音に、機敏に音のした方へ振り返る。


「なッ・・・・・・!」


音の正体は、スケルトン。人間の成れの果て。スケルトンの数は無数。誰もかれもが手に剣や弓、槍を手に持っている。そしてスケルトンは獲物を見据えると、一斉に襲ってきた。

夜月は先頭を切ってきた数体のスケルトンを魔術で撃退し、走り出す。

あの数を一人で凌ぐのは無理がある。そもそも、何故スケルトンなどという異形が街にはびこっている。この世界は何処かおかしすぎる。
なぜ、私が冬木にいるのか。その答えはおおよそ予測できる。爆発はレイシフトの直前だった。爆発でカルデアスは何とか無事で、意識のある適性者を此処へ飛ばしたのだろう。なら、自分以外にもいるはずだ。此処に飛ばされたカルデアの生存者が。


「ッ――!!」


いつの間にか距離を詰められていたスケルトンが、すぐそこで剣を振り上げる。すぐさま防御壁を形成し、スケルトンが跳ね返った瞬間を狙って迎撃する。その間に追いついたスケルトンたちにも応戦するが、何せ敵の数が多すぎる。
夜月の魔力量は尋常じゃない。しかし、だからと無暗に使うわけにもいかない。使えば、身体の負担が何十倍にもなって返ってくる。

次々と襲ってくるスケルトンに迎撃が追い付かず、防御壁を作って耐え凌ぐ。いくら夜月でも、身体は人間。限界はある。
一体のスケルトンが刃を振り上げる。その一撃で、長いこと防御していた結界が粉々に崩れ落ちた。その隙を逃す敵でもなく。完全に、夜月はこの瞬間で成すすべを失くした。


「伏せろ、ディーアッ!!」

「ッ――!?」


突然、誰かに叫ばれた。その言葉を理解するよりも半ば反射的にその言葉に従った。頭を伏せた頭上で炎が放たれ、襲い来るスケルトンを一掃する。

夜月が頭をあげ目の前を見るよりも早く、声の主は彼女を横抱きにしてその場を離脱する。一瞬の出来事に夜月は少なからず困惑していた。人間には到底できない脚力で移動していく中、一掃された場所に目を向ける。あの炎で焼かれたはずなのに、有象無象と湧いて出るスケルトン。

ようやく足が止まり、夜月は一息吐き出した。


「危ねえとこだったな、ディーア」


その声をはっきりと聞いて、身を固くする。

未だ横抱きにされた状態で、おそるおそる顔を見上げる。水色のフード被った誰か。フードから出た長い青い髪に、隙間から覗かせる銀色の耳飾り。私の事を、カルデアでは名乗ってない「ディーア」という名で呼ぶ、この声。


「うそ・・・・・・」


思わず声に出た言葉。
その人はその言葉を聞くと口端をあげ、顔を隠していたフードを下ろした。


「よう、久しぶりじゃねーか。ディーア」


光の御子。クランの猛犬。クー・フーリン。
紛れもなく、以前どこかの世界で契約したその人だった。


燃える街



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