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21


「あれ、ハーマイオニーは?」


ディーアは大広間に向かう途中で、ハーマイオニーがいないことに気づいた。今日一日の授業はずっとネビルといたから、ハーマイオニーとは一緒に居なかったのだ。ディーアは一緒に大広間へ向かっていたパーバティとラベンダーに訪ねる。


「ああ、ハーマイオニーはトイレで泣いてるのよ」


ディーアは目を丸くして、どうしてだと尋ねた。
どうやらフリットウィックの授業が終わった後、ロンが『悪夢みたいなやつ』や『だから友達がいないんだ』と囁かれていたのを聞いてしまったらしい。ショックを受けたハーマイオニーはトイレで閉じこもって「一人にしてくれ」と言ったまま、ずっと閉じこもってしまった。

それを聞いたディーアは、ちょうど前を歩いていたハリーとロンを見つけ、駆け足で向かった。


「ひどいわ、ロン!」

「な、なんだよ急に」


突然ディーアに怒鳴られ、ロンはびっくりとする。


「ハーマイオニーは私の友達よ! 酷いこと言わないで!」


それだけ言い放って、ディーアは大広間とは逆方向に走っていった。ハーマイオニーが泣いていることを小耳にはさんでいたロンやハリーは、バツの悪い顔をして大広間へと向かう。



* * *



「ハーマイオニー、一緒に大広間へ行こう?」


ハーマイオニーは地下への階段のそばにあるトイレの個室に閉じこもっていた。コンコン、とノックをしてはハーマイオニーに呼びかける。扉の向こうでは鼻をすする音がした。


「ハーマイオニー、此処を開けて?」

「わたしのことはほっとてよ。一人で大広間へ行って」

「ほっとけないよ。私たち、友達でしょ」


涙声でハーマイオニーは強く言う。また鼻をすすっているみたいだ。
「ハーマイオニーは、私にとって初めてできた女の子の友達だよ」コンコン、とノックする。「ね、此処を開けて」しばらくすると、ガチャと個室のカギを開けて扉を開いた。目を赤くしたハーマイオニーを出迎えて、ニコリと笑いかける。


「ごめんなさい、ディーア。晩餐、楽しみにしてたのに・・・・・・」

「ハーマイオニーのほうが大切だよ」


気にしないで、といつものように笑顔を向けるとハーマイオニーも笑ってくれた。一緒に戻ろう、と手を差し出してギュっと握る。ゆっくりと手を引いて足を踏み出そうとしたところで、異変気づいた。


「なに、このにおい・・・・・・」


ハーマイオニーのつぶやきに辺りを見渡し、ふと入り口に目をやったディーアはすくみあがった。四メートルはあろう、灰色の肌をした巨大な生き物が、棍棒を振り上げていた。
すぐさまハーマイオニーの腕を掴み、自分の方に引き寄せる。棍棒はハーマイオニーが立っていたところにめりこんだ。


「な、なにあれ!」

「トロールだわ! キャー!」


恐怖に立ちすくんでしまったハーマイオニーを、悠半ば引きずるようにして移動する。トロールは棍棒を床から取り上げてまた振りかぶった。その目には完璧にディーアとハーマイオニーがとらえられている。
手洗い場は粉々に破壊され、水が四方に吹き出している。木造の扉や石造りの壁もところどころ打ち壊され、辺りは凄惨だ。

ハーマイオニーをかばって逃げながら、ついに壁際に辿りつく。とうとう追い詰められてしまった。


「やーい、ウスノロ!こっちだ!」


入り口の方から声が聞こえ、トロールがそちらに振り返った。
ハリーとロンがいた。手当たり次第なにかをぶつけて口汚くトロールを罵っているが、ダメージは与えられていないらしかった。


「ハーマイオニー!」


自分たちから注意がそれたうちに、恐怖で固まったままのハーマイオニーを引っ張ってドアの方へ走り出した。すっかりへたり込んだハーマイオニー。今度はハリーたちに視線を向ける。

トロールのターゲットはロンに移っていた。ハリーが駆け出してトロールの首根っこに飛びついて、彼の杖をトロールの鼻に突き刺す。痛みからか、ハリーが首にぶら下がっている不快感からか、トロールが棍棒をブンブンと振り回した。ロンは咄嗟に杖を取り出す。


「ハリー!」

「ビューン、ヒョイよ!」

「ウィンガーディアム・レビオーサ!」


棍棒はトロールの手から飛び出し、高く上がって、トロールの頭上に落ちた。ふらふらして体を左右に大きく揺らしたトロールの肘から、悠莉は振り落とされて音を立てて床に転がる。

トロールは地響きをさせながらうつ伏せに倒れ、動かなくなった。