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18


それからというもの、ロンとハーマイオニーの関係は最悪と言わんばかりのものとなった。会話の中で一方の名前を出せば、二人とも不機嫌そうにする。
ハリーはあれからクィディッチの練習三昧で楽しそうに過ごしているが、必ずどちらか一方と過ごしているディーアにとっては胃に来るものがあった。

そんな今日は珍しく、ロンもハーマイオニーとは一緒ではなかった。
ハリーはいつも通り練習へ。ロンは溜まった課題に泣いて取り組んでいる。ハーマイオニーに至っては、借りてきた本を読むべく静かな場所を探しに行った。

一人になったディーアは図書館で勉強に励もうと、さっそく羊皮紙と羽ペンとインクを持って出かけた。


「やあ、ディーア!」

「どこに行くんだい?」

「ジョージ! フレッド!」


背後から声をかけ、二人はディーアの方に腕を回して乗っかかった。


「今からフィルチに悪戯を仕掛けに行くんだ」

「絶対に面白いぜ? ディーアも来いよ」

「んー・・・・・・フィルチに悪戯をする肝はないかなぁ・・・・・・」


つい先日、ディーアは度肝を冷やすほどの体験をしたのだ。後ろから迫ってくるフィルチの足音の恐怖心がいまだに消えていない。



「それに私、今から図書館へ行くの」


「だから、ごめんね」と笑みを零せば、二人は案の定「ええー!」と駄々っ子のような声をあげた。それにディーアは苦笑する。

「図書館に行くなんて、勉強でもすんのかー?」フレッドが左から頬をつつく。
「この真面目ちゃんめー」ジョージが同じように頬を右からつつく。


「ま、それなら仕方ないか」

「今度誘う時は予定開けとけよー!」


ディーアの方からパッと腕を離すと、二人は「じゃあな!」と手を振って足早に立ち去っていった。二人の背に手を振り返し、姿が見えなくなると、ディーアは手に持った持ち物を抱え治して再び図書館へ向かって歩き始めた。



* * *



図書館へ来るなり、ディーアの気分は最高によかった。
図書館の中のため、無暗に雑音を零してはいけないと口をつぐんでいたが、開けは鼻歌を歌いそうなほどだった。

棚にある本を見上げながら、借りる本を決める。

既に抱えている本の一つは呪文の本。一年生でも扱えるようなものだ。ハーマイオニーと一緒に部屋で教科書はもう読んでしまったのだ。
二つ目のものは辞書。ただの国語辞典。自分用の物を買うまでは図書館のものを借りて文字の勉強をすることにした。
そして今探しているのは、魔法薬学の本。母の本は家でも読めるが、ホグワーツの本は学校にいるときにしか読めない。ならそちらを優先して読もうと思った。

ホグワーツの本の量は膨大だ。ゆえに魔法薬学の本も多い。どれにしようか迷いながら歩く。ふと、棚の上の方にある一冊の本が目に入った。背伸びをすれば取れるかもしれないと、つま先立ちをして手を伸ばす。しかし手は本に触れることはできなかった。
しばらく背伸びをして何とかして取ろうとしていれば、呆れた声が降ってきた。


「何をしている」

「あ、マルフォイ」


マルフォイは呆れた顔でディーアを見ていた。
ディーアはそっと伸ばしていた手を下ろし、踵までしっかりと足を床につける。


「えっと、本を取ろうとしてたんだけど、届かなくて」

「・・・・・・なら、梯子でも使えばいいだろう」


ため息交じりに正論を言われる。「そ、それもそうね! 梯子、どこかしら・・・・・・」いさぎよく梯子を使う事にしたディーアは、さっそく梯子を探して辺りを見渡した。

マルフォイは立ち去ることなく、そなえ付けの机に寄りかかる。その目線は梯子を探すディーアを向いていた。


「それにしても、理解に苦しむね。エヴァレスト家である君がグリフィンドールに選ばれるなんて。君にはスリザリンこそ相応しいのに」

「あら、でもグリフィンドールはとっても良いところよ。みんな優しくて、仲良くしてくれるの。私、グリフィンドールでよかったわ」


マルフォイの言葉に応えながら蓮後を探すディーア。梯子はすぐそばにあり、さっそくそれを持ち上げて運ぶ。少し重いが、持てなくはない。


「君、頭のネジでも緩んでるんじゃないのか? 君は純血だろ」


マルフォイはディーアの言葉を聞いて、目を吊り上げて言い放った。
ディーアは『純血』という言葉に疑問を抱きながら、梯子を本棚に設置した。


「純血・・・・・・? もしかして、純粋な魔法族の一族ってこと? でも分からないわ、母は確かにリディア・エヴァレストだけど、父はわからないもの。私、両親の事、何も知らないから」

「馬鹿言え! エヴァレスト家は代々純血を受け継ぐ高貴な一族の一家だ! マグルなんかと交わるわけないだろ!」


突然怒鳴り声をあげられ、ディーアはビクリと肩を揺らした。
「そ、そうかな・・・・・・」と恐る恐るに受け答えれば、「そうに決まっている!」と怒気を強めた声が返ってくる。ディーアは「そっか・・・・・・」と返す以外の言葉を見失った。

次、どんな言葉でマルフォイの機嫌を損ねるかわからない。ディーアは余計なことを言う前に本を取ってしまおうと梯子に足をかけた。


「だいたい君は・・・・・・って、何をしてるっ!」

「ええっ!?」


梯子に足をかけて登ろうとするディーアを見て、マルフォイは再び声をあげる。
ディーアに至っては、声をあげられた理由がわからず戸惑うばかり。


「ぼ、僕がすぐそばにいるというのに、何をしてるんだ!」

「だ、だから、本を取ろうとして・・・・・・」

「その恰好で登るな! み、みえる、だろう・・・・・・」


顔を真っ赤に染め、俯かせながら小さく呟く。消えそうなくらい小さな声を聞き、数秒後、マルフォイが何を危惧していたのか理解し、ディーアも顔を赤く染めいそいそと梯子から降りる。


「え、えっと・・・・・・」


お互い顔を赤くして俯く。
どう声をかけようかと、指をもじもじとしていると、目の前にいるマルフォイが口を開いた。


「・・・・・・だ」

「え? な、なに?」

「だから・・・・・・どの本だと聞いている・・・・・・」


ディーアはすぐさま本を指さした。「あの、装丁がまだ綺麗な本よ。少し高い場所の」マルフォイはディーアが示している場所を見つめ、言われた本を探す。

その本を見つけると、マルフォイは梯子に手をついて足をかける。そのまま登っていき、指定した本を抜き取ると「これか?」と上から確認を取った。ディーアが数回首を縦に頷くと、その本を手に持って梯子から降りる。


「・・・・・・ほら」

「ありがとう・・・・・・」


本を受け取り、お礼を言う。
マルフォイはまだそっぽを向いたままだ。


「ふん。次会う時までにレディとしての自覚を持つんだな。エヴァレストの名が泣く」

「れ、レディって・・・・・・わたし、まだ11歳なのに・・・・・・」


マルフォイはそのまま図書室を出て行ってしまう。
本も借りず、本を読まずに行ってしまうものだから、一体何のために此処へ来たのだろうと思う。が、きっと邪魔をしてしまって気が反られてしまったのだろうと思い至る。

ディーアは取ってもらった本を含め、三冊の本を借り、図書室に思う存分籠り続けた。