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「まさか!」
「すごい! すごいわ、ハリー!」
夕食時、マクゴナガル先生に連れていかれて何があったか、ハリーはロンとディーアに話して聞かせた。
「シーカーだって? だけど一年生は絶対ダメだって……きみ最年少だよ。何年以来かな……」ロンはステーキ・キドニーパイを口に入れることをうっかりと忘れていた。
「百年以来だって。ウッドがそう言ってたよ」ハリーはパイを掻き込むように食べていた。よほどお腹がすいているのだろう。
ロンはあまりに驚いて、感動して、ボーッとハリーを見つめるばかり。
「じゃあ、これから練習があるの?」
「うん。来週から始まるんだ。でも誰にも言うなよ。ウッドは秘密にしておきたいんだって」
「わかった。ならグリフィンドールだけの秘密だね」
その時、双子のウィーズリーがホールへ入ってきて、ハリーを見つけると足早に駆け寄ってきた。
「やあ、ハリー。ウッドから聞いたよ。俺たちも選手だ――ビーターだ」
「今年のクィディッチ・カップはいただきだぜ」
早速、ウッドから事の話を聞いた双子は、すでに優勝を目前に見ているようだった。話によると、ウィーズリー兄弟のチャーリーが卒業してから、グリフィンドールは一度も優勝しなかったという。
「ジョージとフレッドは同じビーターなの?」二人を椅子に座ったまま見上げると、双子はハリーの隣に座ったディーアを挟むような立ち取りにくる。
「やあ、ディーア。そうだぜ、俺たち二人でグリフィンドールのビーターさ」
「へえ、双子だし相性抜群だね」
「勿論さ。俺たちのコンビネーションは誰にも負けやしないさ」
「じゃあ俺たちは行かなくちゃ。リーが抜け道を見つけたっていうんだ」
「まあ、俺たちがもう見つけた奴だと思うけどね。じゃあな、ディーア。君にもあとで教えるよ」
じゃあな、と手を振る双子に「またね」と手を振り返す。本当にジョージやフレッドは嵐のような人だなあ、と思っていると今度は違う人たちが現れた。クラッブとゴイルを従えたマルフォイだ。
「ポッター、最後の食事かい? マグルのところに帰る汽車はいつ乗るんだい?」
「マルフォイ……」
「地上ではやけに元気だね。小さいお友達もいるしね」
またもや突っかかってくるマルフォイを今度こそ諫めようとしたディーアだが、思っても見ないことに、ハリーは冷ややかにマルフォイたちに言い捨てたので、それ以上は何も言わなかった。
「僕一人だって相手になろうじゃないか。ご所望なら今夜だっていい。魔法使いの決闘だ」
「(魔法使いの決闘……?)」
マグルでも試合とかで決闘方法がある。それなら魔法使いにだってあってもおかしくはないか。ディーアはマルフォイの言葉を聞きながらひっそりと思った。
「魔法使いの決闘なんて聞いたこともないんじゃないか?」馬鹿にしたようにマルフォイは笑う。
「勿論あるさ。僕が介添人をする。君のは誰だい?」ロンが素早くこたえる。
「クラッブだ。トロフィー室で会おう」
マルフォイは後ろに従えた二人の大きさを見比べて、クラッブと応える。いつも鍵が開いているというトロフィー室で会う約束を半ば強引につけ、マルフォイたちは立ち去る。
マルフォイたちがいなくなると、三人は顔を合わせた。
「魔法使いの決闘ってなんだい? それに介添人って?」
「介添人っていうのは、君が死んだら代わりに僕が戦うってことさ」
冷めてしまったパイをようやく口に入れながら、ロンは気軽に言った。その言葉でハリーやディーアも、すっかり青ざめてしまった。
「ねえ、決闘ってすごく危ないんじゃないの? そんなものを今夜するの?」
「死ぬのは、本当の魔法使い同士の本格的な決闘の場合だよ。ハリーやマルフォイも、相手にダメージを与える魔法は習ってないだろ? マルフォイも断ると思ったんだよ」
青ざめた二人を見て、ロンは慌てて付け加えた。
それでもハリーやディーアの顔色がよくなることはなかった。せいぜい死ぬことはないだろうという、少しの安堵感だけだ。
「もし僕が杖を振っても何も起こらなかったら?」
「杖なんて捨てて鼻にパンチ食らわせろ」
「一応、私たち魔法使いよ? 杖は捨てちゃダメでしょ。せめて持ったままよ」
「ちょっと失礼」
三人が見上げると、今度はハーマイオニー・グレンジャーだった。
「まったく、ここじゃ落ち着いて食べることもできないんですかね?」ロンがウンザリとした様子でぼやく。
「はい、ハーマイオニー」ロンとは逆に、ディーアはニッコリと笑顔を向けた。
「聞くつもりは無かったんだけど、あなたとマルフォイの話が聞こえちゃったの……」
「聞くつもりがあったんじゃないの」
「ちょっと、ロン」
ハーマイオニーはロンのつぶやきを無視して続ける。
ロンもうんざりとした顔をしているが、ハリーも同じようにロンと同じ顔をしていた。
「……夜、校内をウロウロするのは絶対ダメ。もし掴まったらグリフィンドールが何点減点されるか考えてよ。そえに捕まるに決まってるわ。まったく、なんて自分勝手なの」
「まったく大きなお世話だよ」
口うるさく小言を言うハーマイオニーにハリーが言い返すと、続いてロンが「バイバイ」ととどめを刺す。
ハーマイオニーは「ふん!」とそっぽを向いて、ツカツカと足音を鳴らして立ち去って行った。ハーマイオニーの背中を見つめ、姿が見えなくなると、ディーアは再度ロンとハリーに目を向けた。
「今夜トロフィー室へ行くの?」
「そりゃ行くさ。もし僕らがマルフォイが来て僕らがいなかったら、一生笑われるよ」
「ディーアは来なくてもいいよ。ロンと二人で行くから」
「ううん、私も行くわ。心配で寝れないもの」
「じゃあ十一時半に談話室で会おう」
「ええ」