13
その日、ディーアはとうとう日記に書かれた隠し通路を見つけた。
ぽっかりと空いた通路を覗き込むと、その中は真っ暗だ。何か明かりがないと勧めやしない。けれど、ディーアは好奇心に負け、明かりを持たずに進もうとする。
きっと呪文で明かりを付けれるものがあるのだろうが、今のディーアにはそんな知識はない。あとでハーマイオニーが読んだという『基本魔法呪文』でも読んでみようと、頭の片隅で思いながら身を乗り出した、その時だった。
「「やあ、かわい子ちゃん」」
ぽん、と両肩に手をのせられ、両耳から同時にささやかれて、ディーアは驚きのあまりビクリと大きく肩を揺らした。一瞬、心臓が出たような気分だ。
ゆっくりと振り返ってみると、肩を掴んだのは赤毛の双子で、一歩引いたところに長身の男子がこちらを見守っていた。
「まさか、かわい子ちゃんがこんなことをするとは」
「どうやら好奇心旺盛らしい」
「悪い子だ」
「ああ、いけない子だ」
フレッドとジョージは交代にニヤニヤとした顔つきで、テンポよく言ってくる。
後ろにいる男子がその様子を見て「お前らが言うか」と笑いながらぼやいた。
「それに、俺たちは見たぜ?」「確かに見たとも、間違うはずない」ジョージの言葉に、うんうんとフレッドが頷く。
「「君が厨房に入っていくのを!」」
ディーアはギクリとする。
セドリックに教えてもらってから、毎日ではないが、ここ数日頻繁に通っていたのは事実。人目には注意を払っていたが、どうやら運悪くこの三人に見られてしまったらしい。
「えっと……」ディーアは返答に困った。
「俺たちはまだ厨房の入り方を知らない」
「でも君は知ってる。この通路もだ。君は僕たちの知らないことを知っているらしい」
「と、いうわけでだ」
「「俺たちと取引をしようか」」
「とりひき……? なんの……?」いったいこの後、自分はどうなってしまうのだろうかと不安になっていたが、予想外の言葉にディーアは目を丸くした。
話についていけないディーアに、「一年生をいじめるなよ」と男子が注意を即す。ついでにとばかりに自己紹介をした彼は、リー・ジョーダンというらしく、双子の親友らしい。
「ディーアにとっても良い提案だぜ?」ジョージが言う。
「そうだぜ? いろいろと得する話さ」フレッドが続ける。
「こっち来いよ」ジョージに手招きされ、フレッドに手を引かれ、リーに肩を押されるままディーアは道の死角へ連れて来られる。
ジョージがポケットから出したのは、ボロボロの羊皮紙。それを見せようとしたが、三人は年上の男子である上に高身長だ。まだ背の低いディーアに見せるには目線が合わない。するとフレッドがディーアを持ち上げ、柱の腰を掛けられるところに座らせ、羊皮紙を見せる。
「これはなに?」
「まあ見てなって」
「”我、よからぬことを企む者なり”」
杖をかざして、合言葉を述べる。
白紙の羊皮紙にしみが浮かびだし、線を描いていく。線は細かく、絵は大きい。そして歩くように足跡がついていき、名前が浮かび上がる。
「これ、地図……ホグワーツだ……まさか、全員の名前なの?」
ディーアは驚愕した。
これさえあれば、誰がどこでいつ何をしてるか、一目でわかる。
「俺たちの知らない道と厨房の入り方を教えてくれたら、必要な時にこの地図を貸す」
「あと俺たちが把握してるホグワーツの秘密の場所もな」
「どうする、ディーア? いい話だろ?」
取引とはこういうことか。
地図には隠し通路も書いてあるが、ディーアが見つけた通路は書いていなかったらしい。そして厨房も、場所は分かるが入り方がわからない。
けれど、ディーアは日記を頼りに此処へたどり着いただけだ。他の通路も書いてあるとは限らない。そう素直に教えても、厨房の入り方を教えてくれればいいと言う。だが、厨房はセドリックとの秘密だ。教えてはいけない。
「でも……秘密って約束したし……」
「教えてくれないと」ジョージが言う。
「ポロっとディーアのこと、マクゴナガルにこぼしちまうかもしれないぜ?」フレッドが言う。
「ええっ!?」なんて横暴なんだ、とその強引さに驚く。
「……わかった……教える。でも絶対に秘密よ」
「「ようこそディーア、君も上級生の仲間入りだ」」