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12


ホグワーツに来て最初の一週間が過ぎた。
今日は休日で、それぞれが思い思いに、初めてのホグワーツでの休暇を謳歌していた。

ハーマイオニーは、知的好奇心に誘われるがままに、朝から図書室へ籠り始めた。ディーアも図書室へ行くつもりだったが、初の休日から勉強詰め避けたい。

ディーアは朝食を終えた後、談話室で手帳と本を読み漁っていた。

どちらも家から持ってきた、母のものだ。本は魔法薬学のもの。何冊もあった本の中で、一番気になったものだ。手帳は、おそらく母の部屋だと思われる場所に、箱に詰めて大切に保管されていた。手帳は日記だ。何冊もあったうち、一番古いものから何冊か持ってきた。日記は毎日書かれているものではなく、メモのように使われていた。

メモのように書き連ねられた文字を指でなぞりながら、読み進めていく。
人の名前は全てアルファベットで記されていた。日記の中身の大部分は、ホグワーツの事について書かれている。ホグワーツの不思議な事柄や、隠された通路など。ディーアはそれを見ると好奇心に駆られて、日記を抱えて談話室を飛び出した。


ホグワーツの地図は、たった一週間ではこの広い敷地を覚えるのは不可能だ。
ホグワーツの地図を覚えるがてら、探検をしながら日記に書かれた隠し通路を探す。階段は動くため、なるべく会談では立ち止まらないように注意して、階段を下りたり上がったりを繰り返す。日記を片手に歩いていたせいだろう。ちょうど階段の一段を下がる途中で、ガクンと身体が傾いた。


「うわっ!?」

「危ない!」


身体が前に倒れる瞬間、ちょうどすれ違いざまに会談へ上ろうとしていた人が咄嗟にディーアを受け止めた。
こんな状況、つい最近もあった気がする。


「あ、ありがとう」


礼を言いながら体を起こし、受け止めてくれた人を見上げると、ディーア「あ……」と零した。受け止めてくれた人はハッフルパフの上級生で、駅で躓いた時に助けてくれた、あのハンサムな男子だった。

ディーアの顔を見ると、その人も思いだしたようで「君、あの時の」と呟いた。


「怪我はしてない? 足、捻ったりは?」

「大丈夫。二回も助けてくれてありがとう」

「大したことはしてないよ」


ハッフルパフの男子はそう言って、謙虚に笑った。笑った顔もハンサムだ。きっと彼は、多くの女子生徒にモテているのだろうとディーアは確信していた。

彼は背の低いディーアを少しの間見つめていると、おずおずと遠慮がちに尋ねた。


「えっと、君はエヴァレスト……だよね?」

「うん。ディーア・エヴァレスト」

「俺はセドリック・ディゴリー。よろしく、ディーア」


温かい笑みを浮かべるセドリックと握手を交わす。
他の寮生で年上の人と話すのは、セドリックが初めてだった。


「君と話せるなんて、嬉しいよ」


セドリックは嬉しそうに言った。
ディーアが不思議そうに「どうして?」と尋ねれば、セドリックは優しい声色で教えてくれる。


「何故って、君は有名だからね。ハリー・ポッターほどではないにしろ、組み分けの時、どの寮も君を欲しがったはずだよ。勿論、ハッフルパフもね」


ここにきて、エヴァレストの名がどれだけ有名なのか改めて実感した。すれ違う人々の誰もが自分の名を知っていて、物珍しい眼を向けられる。こんな毎日を、ハリーは過ごしてるのか。

だが、ディーアは周りが思っているような人ではない。
周りの人たちはエヴァレストという名家の出身というだけで注目しているだけではない。大半はその能力を期待しているのだ。ここ一週間過ごして分かったことだ。エヴァレストの人たちは多くの功績を残したばかりに、それを周りの人はディーアに求める。しかし残念なことに、ディーアはこの世界に入ったばかりで、右も左もわからない。

ディーアは素直にセドリックに打ち明けた。


「でも……私、皆が思ってるほど優秀でもすごくもないわ。魔法なんて知らずにマグルと育ってきたし、何も知らないもの」


その言葉にセドリックは少しばかり目を見開いた。エヴァレストは魔法界でも屈指の名家だ。その末裔であるディーアが、偏見はないが、まさか何も知らずマグルとして育ってきたとは思いもしなかったのだろう。

しかし、彼女を欲しがる理由は、何もその頭脳や知識といった能力だけはないと、セドリックははっきりと告げる。


「君を欲しがるのはそれだけが理由じゃないよ。君には人を惹きつける魅力があるんだ」


「魅力?」ディーアは首を傾ける。
そんなディーアに、セドリックは恥ずかしげもなく平然と微笑みながら言うのだ。


「君は可愛らしいからね」


ディーアは少しばかり俯き、徐々に顔を赤らめていく。
他人と距離を置いて育ってきたディーアは、人に褒められることがなく、そういったことに免疫がない。ディーアは集まる熱を振り払うように顔を振った。


「仲良くなった記念に、良いところを教えるよ。これから暇かい、ディーア?」


良いことを思いついた、と言わんばかりにセドリックは突然問いかけた。
ホグワーツの探検をしていたディーアだが、探検はいつでもできるし、急いですることでもない。ディーアが頷くと、セドリックは「こっち」とディーアの手を引いて階段を下りていく。

ホグワーツ一階の玄関ホールまで降りると、大理石の階段の右側にあるドアからさらに下へと降りていく。左側にあるドアからは、魔法薬学の教室へつながっているが、こちら側はまだ来たことがない。


「ここからハッフルパフの寮に繋がるんだ。合言葉がないと入れないけどね」


ある静物画を指さしながらセドリックは言う。
他の寮生である自分に教えていいのだろうかと、ディーアは苦笑した。

セドリックは果物の絵画の前で立ち止ると、あたりを見回して絵画に手を伸ばす。セドリックが梨を撫でると、梨はくすぐったそうに身をよじりドアノブへと変化した。ドアノブを掴んだセドリックは「こっちだよ」とディーアの手を引く。

眼前には、見たことがない光景が広がっていた。様々な調理器具が積み重なり、見たことのない生き物がせっせと働いている。


「ここ……厨房?」

「そうだよ。本当は入れないんだ。だから秘密だよ」


人差し指を唇の前で立てて、ウィンクをする。
セドリックによると、ここでホグワーツの夕食などが作られているらしい。

「アレはなに?」ディーアが、せっせと働く小さな生き物を目で追った。


屋敷しもべ妖精ハウスエルフだよ。奉仕するのが好きなんだ」


つまり召使のようなものだろうか。魔法界では、こんな生き物がいるのかとディーアは驚愕した。魔法界にはもっと不思議な生き物が数えきれないほど存在しているのだろう。

屋敷しもべ妖精の一人が二人の存在に気付くと、「お嬢様! 旦那様!」とキーキー声をあげ、恭しく迎えた。屋敷しもべ妖精たちは、是非にとパンやらなんやらを嬉しそう差し出す。ちょうど昼時だったこともあり、セドリックは二人分の食料を受け取った。厨房を出ていくとき、ディーアがお礼を述べると屋敷しもべ妖精たちは感激のあまり涙を流した。その態度にディーアは戸惑ったが、セドリックが上手く対応してくれた。


「ホグワーツにはあんな場所があるのね」

「うん。探せばもっとあるだろうね。さ、一緒に昼食にしよう。なんだったら、この後にでも一緒にホグワーツを周ろうか?」

「いいの? ありがとう、セドリック。とっても嬉しいわ」

「俺もディーアと仲良くなれて嬉しいよ」