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08


話にひと段落が着いた頃、時計は十二時を指していた。
車内の通路からガヤガヤと騒がしい音がすると思えば、車内販売のおばさんが食べ物をぎっしり乗せたカートを引いていた。


「車内販売はいかが?」

「ぼく、いいや。自分で持ってる」


ロンはそう言って、ポッと耳を赤らめポケットからサンドイッチをだした。少し残念そうに見えた。

ハリーやディーアもロンと同じようにお腹がすいていた。ハリーは、ロンが食べたそうにしてたこともあり、お金も十分にあることもあって、どれも少しずつ買い逃さないようにしていた。


「三人で食べようよ」

「いいの、ハリー?」

「でも僕、サンドイッチがあるから……」


ハリーは買い占めたものを三人で分け合おうとした。ロンはサンドイッチがあるからと断ろうとしたが、目は買い占めたものに釘づけだ。欲には勝てず、サンドイッチはほったらかしにした。

ディーアは素直にそれに甘えることにした。今まで人に分け与えられたことなど無かったために、それが嬉しかったのだ。それはハリーも同じだった。分け与える人もいなかったし、分け与えるモノもなかった。ディーアやロンとパイやケーキやらを夢中になって食べるのは、素敵なことだった。

三人が夢中になって食べ物を頬張っているとき、ハリーは一つのお菓子を手にした。蛙チョコレートだった。


「蛙チョコレート? 蛙の形をしてるってこと?」

「本物の蛙じゃないよね?」

「当たり前だろ。魔法で動いてるんだ」


早速ハリーが箱を開けると、チョコレートの蛙がまるで生きているように動いていた。箱を開けた瞬間、蛙チョコレートは窓に飛び移って、空いた窓の隙間から逃げてしまった。箱にはカードがついていた。ロンは五百枚も集めたらしい。そこにはある人物が浮かび上がっているのだが、一度目を離すと消えてしまった。ハリーはダンブルドアのカードを当てた。

再び三人は別のものに手を出す。その時ふと、お菓子の箱をあさる鼠に視線が向かった。


「こいつはスキャバーズ」

「ロンのペット?」

「うん、元はパーシーのだけど。かっこ悪いだろ?」

「ちょっぴりね」


スキャバーズはお菓子をあさり続ける。

「黄色に変える呪文を教えてもらったんだ。見てみる?」ロンがそう言うと、ハリーやディーアは同時に「やって見せて」とお願いした。魔法に慣れ親しんでない二人にとって、未知の世界だ。見たがるのも必然だ。

ロンが杖を出して呪文を唱えようと口を開いた時、一人の女の子が現れた。その子は新調したホグワーツの制服を身に包んでいる。


「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのがいなくなったの」


なんとなく威張った話し方をする女の子だ。栗色の紙がフサフサしていて、前歯がちょっと大きかった。


「いいえ、見てないわ」


ディーアが答えると女の子は「そう」と素っ気なく返す。
女の子は出ていくことはなく、ロンの杖に気を取られていた。


「あら、魔法をかけるの? やってみせて?」

「あー……いいよ」


ロンは咳ばらいをし、杖を構える。
三人はじっと杖と、杖を向けられたスキャバーズを見つめた。


「お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ!」


ロンは杖を振ったが、何も起こらなかった。スキャバーズは相変わらず、ねずみ色のまま。

「その呪文、間違ってないの?」女の子は言った。確かに、何の効果も見られなかったという事は間違いという事だろう。
女の子はあとに一気に続けた。彼女の家族に魔法族は一人もおらず、自分一人だった。そしてまだ使ってすらいない教科書はすべて暗記し、練習のつもりで簡単な呪文を試し、すべて成功させたらしい。とても勤勉で努力家なのが伺えた。

ハリーやロンやディーアは、まだ一ページすら開いていない。ハリーはまだ読んでいないと語るロンの顔を見てホッとし、ディーアは後で読んでみようと思った。


「私、ハーマイオニー・グレンジャー。あなたたちは?」

「僕、ロン・ウィーズリー」

「私はディーア・エヴァレスト」

「ハリー・ポッター」


「ほんとに? 私、もちろんあなたのことは全部知ってるわ」ハーマイオニーはハリーの名を聞いてそう答えた。ハーマイオニーが言うには、ハリーは少なくとも三冊の参考書に名前が載っているらしい。如何にハリーが有名なのかを改めて思い知る。


「あなたの事も知ってるわ」

「わたしも?」

「ええ。だって書いてあったわ。エヴァレスト家は代々研究に熱心な人が多くて、多くの呪文や薬学を編み出した一族だもの」


これほど熱心に様々な本を読んだ子が言うのだ。間違いないだろう。
ディーアは家族の事は知らないが、過去の血縁者たちを褒められるのに嫌な気はしなかった。


「私、もう行くわ。ネビルの蛙を探さなきゃ。三人とも、早く着替えたほうが良いわよ。もうすぐ着くはずだから」


ハーマイオニーはそう言ってさっさと立ち去っていった。行動も早く、なんとも優等生気質な子だ。


「それじゃあ私、外に出てるから。先に着替えて」

「うん、ありがとう。早く着替えるよ」


ディーアはコンパートメントを出て、ハリーたちと交代で新調の制服に着替える。制服を着たことなんて一度もない。制服を身に着けるだけで、なんだか引き締まったように感じた。