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14騎のサーヴァントを呼びだし、赤と黒に分かれ7騎同士で殺し合う。そうして赤もしくは黒が勝ち、最後は残った者同士で聖杯を奪い合う。
それが聖杯大戦。此処、ルーマニアで引き起こされた戦争だ。

そして再び、この世界で目覚めた。
サーヴァントも変わらず。全く同じで、けれども違う、並行世界で――



「やはり来ましたね、神楽耶夜月。いえ、15人目のマスター、ディーア」


自分のサーヴァントであるアルジュナを連れ、ディーアは教会へと足を踏み入れた。
目の前には笑みを絶やさない神父。そしてそのサーヴァントであるアサシン。
ディーアと神父が対立している間、その背後に控えるサーヴァントらは互いに警戒し、監視を怠らない。

この世界はあの出来事の後。ゆえに、ディーアもアルジュナも前回のことを覚えている。


「予想より早い到着で」

「シロウ・コトミネ……いえ、天草四郎時貞」


ラブラドライトの瞳を光らせる。
「貴方も、やはり……」と口を零せば、目の前の青年はクスリと笑う。


「ええ。私は以前、貴方と契約していたのですから。記憶は当然、引き継がれる」


「そこのアーチャーと同じように」と、神父はディーアの背後にいるアルジュナに目を向けた。

ここまでの話で、記憶を受け継がないアサシンは全てを分かっているように、悪い笑みを浮かべている。
予想できるのは、彼がすべて話したという仮説。それが一番納得できる。

神父は微笑むのをやめた。
琥珀色の瞳で見つめている。


「今度こそ、私は願いを叶える。それが貴女の望まないことだとしても。またしても私を阻むのなら、たとえ貴方でも殺しましょう」


彼の決意は既に固まっている。
それは以前から。強く強く。

「考えを改める気は」と、不毛な問いを投げた。答えなど、分かり切っているのにもかかわらず。


「ありません。私の願いは人類の救済。そのために、邪魔をするなら排除します」

「私の願いは世界の救済。ゆえに、貴方を殺そう」


琥珀の瞳とラブラドライトの瞳が見つめ合う。
どちらの信念も固く。強く。譲ることなど知りもしない。


「セミラミスッ!」

「アルジュナッ!」


ほぼ同時に、我がサーヴァントの真名を叫ぶ。

対話はなされた。ゆえに語るは己の武器のみ。
セミラミスは片手を伸ばし、アサシンとは不似合いな魔術で二人を狙う。それに対抗し、アルジュナが大弓を引く。
互いの武器が建築物を破壊し、強烈で凄まじい戦闘が此処に開かれる。

――はずだった。


カキンッ――!! と金属の音が響いた。


「貴様……ッ!」

「ランサーかッ! 貴様……何の真似だ」


アルジュナとセミラミスの間に横やりを入れたのは赤のランサー、カルナだった。
細く長い金色の槍で二人の攻撃を無効化する。
カルナはセミラミス、アルジュナ、ディーアに目を向けた後、最後にシロウ・コトミネを見た。


「ランサー、そこを退いてください」

「それはできん」

「なに?」


神父がそう言い放つと、カルナは即座に否を唱えた。
その答えに瞳を鋭くしたセミラミスが聞き返す。


「俺も、以前は彼女のサーヴァントだ。シロウ・コトミネ、お前と同じく記憶を持ち合わせている。つまり、お前たちの目論見も覚えているということだ」


淡々と事実を語るカルナは、シロウ・コトミネとセミラミスを鋭く澄んだ青い目で見やった。
セミラミスがカルナに向かおうとするのを手で制し、微笑みを戻した印譜が問う。


「それで、貴方は彼女に加担すると? マスターは裏切らないのではないんですか?」

「無論、マスターは裏切れん。だが、そのマスターは既にお前に騙され囚われているだろう。令呪も奪われる」


「……が、それは見たところまだのようだな」手の甲に刻まれた彼の令呪を見て、カルナは言う。


「令呪がない以上、俺がお前たちに従う義理は無い」


ヒュッ! と槍を振りかざし、シロウ・コトミネやセミラミスと対峙することによって敵対の意を伝える。
すると、セミラミスが嘲わらうように続けた。


「それがどうした。魔力供給なしで存在できない以上、お前は此処から離れることはできぬ。令呪もじきに我のマスターが手にいれる。哀れよなぁ、施しの英雄。お前のこの行いは、なんの意味もなさぬ」

「確かに。単独スキルがない以上、マスターのいない場所へ長くは行けまい。そうして留まっていれば、令呪が奪われるのも時間の問題。だが……」


肯定したカルナは踵を返し、ディーアを見つめた。
青い瞳に彼女が映し出される。
その瞳は語る。声に出さずとも、言葉にせずとも、その全てを見透かすような瞳が全てを語る。


「此処には、イレギュラーのマスターが一人いる」


ディーアは令呪の刻まれた手を伸ばした。


「まさか、再契約をッ……!」

「ッさせるか!!」


カルナが何をしようとしているのか悟れば、それを阻止しようとシロウ・コトミネやそのサーヴァントが動く。
ディーアを攻撃しようと向かうセミラミスの攻撃を、アルジュナが阻止する。


「邪魔はさせません」

「チッ! ランサー貴様、裏切るかッ!!」

「元より、先に裏切ったのはお前たちのほうだ」


神父は直ぐにアーチャーとライダーを呼んだ。
まだ彼らの令呪は持ってはいないが、マスターの代理としている彼の言葉は聞く。
駆け付けたアーチャーのアタランテとライダーのアキレウスは、目の前に広がっている状況に少々目を見張った。


「……おいおい、何がどうなってんだ……?」

「何があった、何故ランサーが」

「ランサーが裏切りました! すぐに対処を!」

「早くそこなマスターとランサーを止めよッ!!」


困惑している二人に神父とアサシンが叫ぶ。
訳が分からないが弓を弾き、槍を顕現するアタランテとアキレウス。それらに加えアサシンの三人を相手取るアルジュナ。
彼がいかに強大な力を有している英霊かが伺える。

一方、アルジュナが彼らを足止めしている間。
ディーアの令呪は淡く光り出す。


「―――告げる! 汝の身は我の下に、我が命運は汝の槍に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――この命運、汝が槍に預けよう!」

「我が名はカルナ。この名に懸けて此処に誓う。お前を我が主とし、立ちはだかる者全てを切り伏せよう」


令呪が一層輝く。そして既にあるアルジュナの令呪に加え、新たな三画の令呪が刻まれ始める。
一人で2騎のサーヴァントを従えるなど、これまでに一度もない。しかし、彼女はイレギュラー。そしてこの聖杯戦争自体がおかしいのだ。
ならば、不可能すらも可能にできるだろう。


「ランサーを討て!!」

「マスター!!」


セミラミス、アタランテ、アキレウスが一斉に向かってくる。
アルジュナはマスターであるディーアを抱えそれを避けると、次にカルナが彼らに向かって槍を振り払い、炎を放った。そうして足を一瞬止めれば、既に彼ら三人は教会から姿を消していた。


「……」


シロウ・コトミネは彼らがいた場所をじっと見つめた。
いつも爽やかな笑みを浮かべる表情は、今はわずかに眉を潜めていた。



あったかもしれない世界