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――アンタがそれを望むなら、オレは、それを叶えてやるだけだ。



「――ねぇ、ロビン」


お嬢がオレをサーヴァントとして呼んだ、1つの可能性の世界……並行世界での、アンタの最後で。
お嬢はムーンセルの電子の海に分解されながら、最後に1つ。オレにある頼みごとをした。

その頼みごとは、お嬢と契約を結んだサーヴァント全員に言っていることらしい。だからオレも同様に、それを頼まれた。
徐々に消えていく、お互いのからだ。お嬢は眠りに誘われながら、半透明になった手をオレに伸ばす。

それをしっかりと握り、それに応えた。
お嬢はすると、安堵したように微笑んで――その姿形を消した。握った手も、抱きしめていた身体も、もうそこには無かった。


「ほんと、酷い頼み事をしてくれたぜ……お嬢――――」



――仮に、オレをサーヴァントとして呼んだこの世界が『世界線RWorld Line R』と呼称するなら。

――その一つの並行世界であるこの世界を、きっと『世界線KWorld Line K』と呼称するだろう。



お譲渡契約を結んで、記憶を保持するようになったその世界でのオレは、また、お嬢には呼ばれない世界だった。
ある意味、本来あるべき姿。本来あるべき世界の形だ。
だから文句は言えない。いや、文句はない。この主従関係も、それなりに気に入っていた。

この並行世界に、必ずお嬢が存在するという保証はない。
お嬢は世界を渡る。順番に、不規則に、お嬢が感知した順番に。

だからこの世界にお嬢がいるとは、限らない。


「2回戦の相手を確認した。まだ若く、未熟だが不思議と冷静さのあるマスターだ。油断はするな、予断も油断も、感心はせんぞ」

「へいへい、分かってますって。どんな相手だろうと手加減なし、かつシンプルにぶっ殺しますよ」


シナリオ通りの言葉を吐くのには慣れた。しかし、不思議と嫌気は刺さなかった。

マスターであるダン・ブラックモアは「まだ若く、未熟だが不思議と冷静さのあるマスターだ」と言った。
なら、この世界はお嬢が存在する並行世界だとわかった。

記憶を保持する。それは今後なにが起こるか把握していることだ。お嬢も、オレも、次に何が起こるかだいたい、大まかにわかっている。
だからといって未来予知な行動をとるつもりはない。本来は知らないことだ。だからお互い、知らぬふりをして行動する。

たとえ未来予知の行動をとろうとしても、そう上手くはいかないのだ。
例えば、前回の並行世界で辿った生存ルートを他の並行世界で、まったく同じように進む。けど、その並行世界では前回の生存ルートが死亡ルートで、前回の死亡ルートがこの並行世界での生存ルートだったりする。
こういった風に、並行世界というだけ微妙な違いがある。だから大抵、意味はないのだ。

しかし、次に起こる基本的な行動パターンがわかるのも事実だ。
お嬢は言った。大幅に行動を変えなければ世界は変わらない。だから、些細な小さなところで行動を変えるのは平気だ、と。
それならそれに従い、少しだけ行動を変える。

これらは同時に、今は敵であるお嬢に加担しているようにも見えるだろう。だが、それは違う。
今のマスターはあの老騎士であって、お嬢ではない。敵である以上、マスターを勝たせるため、躊躇なくお嬢を殺しに行く。


それが、お嬢がサーヴァントたちに望んだことだった――――


だから、猶予期間の3日目。オレは同じように、お嬢を殺しに行った。

早々にお嬢を見つけ出して、背後から狙った。勿論、相手が感知するほどの殺気を携えて。
躊躇はある。自分のマスターだった人だ。それに加え…………

そうすればお嬢はオレの存在に気付く。サーヴァントも気づいただろう。
お嬢は弾かれたように校舎内を走り、アリーナへ向かった。

予定通りの行動だ。いや、ずいぶん前に話を聞いたところ、アリーナ以外の場所へ逃げ込むと必ず殺されたらしい。
誰に、とは微笑むだけで言わなかった。


アリーナへ入れば、お嬢のサーヴァントは姿を現した。


――ああ、あれが今回のサーヴァントか。


一目見ればわかる。オレとは違い、桁違いのサーヴァントだ。
ああ、いや、そんなことを思わなくたってあの顔は知っているじゃないか。相手は当然記憶にないだろうが、あの月の裏側で戦った。
二度と相手にしたくないと思ったほど、手ごわかった記憶がある。

弓を構えなおし、お嬢に向ける。
二人はアリーナを走り、走って、ついに視界のひらけた場所へ出た。そしてピタリ、その足を止めた。


「予想通りだな。分かりやすいマスターで助かったぜ」


直ぐに矢を射る。二つ矢だ。けどあのサーヴァントには、まったく意味がないと分かっている。
薄幸野郎は見事にふせぎやがった。一つやをはらえば、二つ目の矢を槍で切り落とす。だから、三つ目の矢を放った。

槍で防いだ時にできた、一瞬の死角。
刃にはお嬢でも耐えられないぐらい、強力な猛毒が塗ってある。

必ず仕留められる。
生前で、あんだけ弓を使ってきたんだ。はずすわけがない。それでも…………


それでも外したのは、アンタを殺すのに躊躇したせいだ――――


一本の矢がお嬢にめがけて真っ直ぐと飛んでいく。お嬢の腕に、微かな傷が一条刻まれていた。
お嬢はサーヴァントの背後で膝をつき、それをサーヴァントがこちらを警戒しながら伺う。


「狩りに特化した戦い。2本の矢を落すため槍を振った瞬間、槍でできた俺の死角を狙ったか。敵ながら賞賛するほどだ。間違いなく、アーチャーのクラスだろう」


「オレはアンタみたいのと正面からの打ち合いなんざ、はなっからゴメンでね。アンタらにはここで、確実に降りといてもらわないとな」

「……何をした」

「おっと、怖い怖い。残念だが、3本目の矢には1番つえー毒が塗ってある。ただの強い毒じゃねぇ、まだ意識を保ててんのが不思議なくれぇだ。あんたも、運が悪かったな」


力をいれて起き上がろうとするお嬢。床についた手がぷるぷると震えていた。
種明かしをすると、薄幸サーヴァントはすぐさま駆け寄る。オレを警戒をしながら、お嬢の手を掴んで横抱きに抱える。


「チッ、しぶといなアンタ」


そうだよな。アンタがこんなところで、簡単に死ぬわけねぇ――


アリーナの出口へと向かっていく二人を、背後から追って弓を射る。何度も一瞬、顕現させた槍で落とされ、かわされを繰り返す。
当然だが、本当にへばらない。

後をつけていた足を止め、弓を構える。強く強く張って、アリーナから出ていこうとする二人を、お嬢を狙った。
……狙いは定まっていた。あとは矢を射るだけ。矢を支えてる、その指を離せばいいだけだ。


殺せ……殺せよ、おい――


定まった狙いは震えていた。目を細めてただ一点を狙う。離すだけ、手を離すだけだというのに、この手は矢を離さない。
苦虫を噛むような思いだ。

そうしてためらっているうちに、二人はアリーナの出口へ着いて校舎への転送のため、攻撃はもう不可能な状態になった。
舌打ちを鳴らした。

お嬢たちは転送されて、アリーナから姿を消した。


「ふぅ…………」


無意識に、安堵の息を吐いていた。


それからすぐに、決戦を迎えた。
躊躇はしなかった。ただマスターを勝たせるために戦った。お嬢のために、戦った。そして――負けた。

マスターのほうが量子となるのが早く、結果あとに残ってしまった。「今回は俺が後かよ……」呟き、舞い上がったマスターの量子を見上げた。
そしてすべてが消えた後。ふぅ……と息を吐き、自分の足元を見た。ああ、この世界でのオレは、もう消えちまうのか。


「――お嬢」


弾かれたようにお嬢は俯いた顔をあげ、オレを見た。
泣きそうな顔で、その宝石みてえに綺麗な瞳にオレを映した。それが、心地よかった。


「大丈夫さ、今度はその英霊がついてんだ。心配する事なんて、何一つねぇ」


ああ、そうさ。心配する事なんてない。
そのサーヴァントが桁違う名ぐらい強いって、知ってるだろう。マスターに従って、
マスターを守ることを第一に考える、英霊らしい英霊だ。


「だからさ、お嬢」


だからさ、そんな顔すんなよ。
もう泣いたっておかしくないくらい、歪んでるぜ?

確かに、これはこの世界でのオレの死かもしれない。けど、これは死じゃない。
また、アンタに呼ばれるための終わりだ。
また、アンタと出会うための終わりだ。

だから――


「勝って――アンタの願いを、きっと……」


きっと――――




また、アンタと出会うための終わりだ