まずは情報収集をしなければ。
情報は大切だ。
彼女が欲しい情報はこの世界軸での聖杯戦争について。それを聞きだすには魔術師と縁深い、魔術協会総本部の時計塔に行くのが良い。
そこなら魔術師も多くいるだろうから、ひっかけて聞き出そう。
時計塔近くにたどり着くころには月が落ち、太陽が昇り始めていた。夜明けか。
日のあるうちに行うのは難しい。
両手で自分の腕をさすった。酷く冷え切っており、死人や陶器のように冷たい。
いくら自分が異質な存在とはいえ、この身体は肉体を持っている。寝て、食べ、と最低限のことをしなければ人間として死んでしまう。
まぁ、『死ぬ』ことはないのだが。
さて、困った。
此処は律儀に部屋を用意してはくれないし、友もいない。宿をとる金もなければパンを買う金もない。
死活問題、というわけだ。
彼女は指で顎を掴み、どうするか立ち悩んだ。
そんな時。
「お前、何やってんの」
声に導かれ視線を辿ると、そこには厚着をした黒髪の少年が立っていた。
ヒト……。
こんな時間に人がいるとは思わなかった彼女はじっと少年を凝視した。
少年は自分の問いかけに応えずにじっと見つめてくるいかにも異質な少女に、眉をひそめた。
「聞いてんだけど。こんな時間に、この季節に、そんな恰好で!」
少々苛立ってきた少年に後ずさり、曖昧な微笑みを向ける彼女。
この季節にそんな恰好で、と言われ彼女はやっと気づく。妙に寒いと思ったら、今は冬のようだ。彼の厚着にも頷ける。
それに対して自分は素足で薄着だ。おかしいと思われても仕方がない。
しかし、正直に答えるわけにもいかず彼女は困ったように微笑むだけ。
それに比例して少年の不快感も増していく。
「っあーもう! 取り敢えずついてきなよ! こんな場所に長居させられたら僕まで寒いだろ!」
少年は踵を返し歩き出してしまう。
その行動に戸惑うが、取り敢えずついていこうと彼女は足早に少年の背中を追った。