「――ん……」
月が昇る真夜中の時刻、濃霧の森で彼女は瞼を開けた。朧げな眼差しで灰瞳を動かし、辺りを見渡した。
やけに濃い霧だが、草の香りや濃霧でも見える範囲で此処が何処かの森だということは容易に気付くことができる。
地面に手を付き上半身を起こすと、肩からするりと銀の髪が滑り落ちた。その様をただ見つめていると、必然的に自分の服が目が映る。
見慣れない服。白。ぱっとみ膝下までの丈で、肩や胸元が広く開いたゆったりとしたワンピースを着ていた。
そのまま立ち上がる。立ち眩みで一瞬よろけた。地面の感触を感じて足元を見ると、靴を履いていない。
彼女は空を仰いだ。
ラブラドライトのように角度の違いで神秘的な光を放つ、宝石のような灰色の瞳には月が映った。そっと瞳を細める。
ふと両手を見下ろした。
自分の身体に『あの軸』ではまったく無かった魔力がみなぎっている。
いや、本来は今この状態が当然なのだが。
彼女は裸足で歩き出した。足を前へ前へと進める。進むたび草がクッションとなったり土で汚したり、石や枝で傷つける。
しばらく歩き続けると視界が明け、森を抜けた。
「イギリス……」
辺りの景色を見た彼女はそう唇を動かした。
見覚えがある景色だ。
イギリスという事は魔術となじみ深い、ロンドンの時計塔がある。
そして、自分がこの世界軸に引き寄せられたという事は
「――聖杯戦争」
そう、行われるのだ。聖杯戦争が。
それはもう始まっているかもしれないし、あと少し、それか10年後かもしれない。
けれど必ず聖杯戦争はこの世界でおこるのだ。
さぁ、何度でも介入し
遥か昔に願った、目的のために――。