×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
 未遠川を目指して走るなか、ディーアとカルナは人目がつかない裏路地に駆け込んだ。裏路地に駆け込めば、意図を察したカルナがいち早く現代服からサーヴァントの姿に変え、そのままディーアを抱えて空高く飛躍した。敏捷で身軽なランサーの特性を活かして、建物の屋根を上を飛び乗って移動していれば、途中でチャリオットに乗ったライダーとウェイバーに遭遇した。

 二人も魔力が集中する河に向かっているらしく、二人はキャスターの仕業だろう、と言った。工房を壊した腹いせか、もしくはあの惨状以上の恐ろしいことを仕出かすつもりか。目的は見えないが、ともかく事態が非常にまずいことだけは誰もが理解していた。

 ライダーは、キャスターを倒すまでは一時休戦を呼び掛けにまわる、と言う。無論、ディーアもそれに賛成だ。頷いて協力の意思を示せば、ライダーは、先に行く、と言ってチャリオットで空を駆けた。その後を続くように、足を止めていたカルナも再び動き出した。

 河に近づくにつれ、辺りには霧に覆われ、視界を遮断させられる。しかし霧を発生させている中心部に近づけば、その霧も晴れ、中でなにが起こっているのか確認することができる。晴れる視界のなか、露わになる影をじっと見つめ、目の前に現れたそれにぎょっと目を見張らせた。


「……! あれは……」
「巨体な海魔、と言ったところか」


 河の付近に足を止める。

 目の前にそびえ立つのは、悪夢のような巨大な水棲巨獣。深海の覇者と呼ばれる大王烏賊でさえ、ここまでの巨体は持つまい。そんな巨大な海魔が、民家にも近い河の中心に鎮座している。


「ライダーの言う通り、キャスターで間違いないだろう」


 大規模魔術を遂行し、巨大な使い魔を召喚した。そう考えるのが妥当であり、このような大規模な魔術の行使はキャスタークラスでないと不可能だ。しかし、不審な点も多かった。


「でも、いくらサーヴァントでも使役できる使い魔の格≠ノは限度があるはず……まさか」


 そこで、はっと息を呑んだ。


「使役はせず召喚しただけ、ということか」
「使役を考えず、召喚するだけなら問題にならない……まさか、そんな暴挙に出るなんて……」
「キャスターの制御下に無いとなると、厄介だな。此処は人が多い」


 辺りに視線を配るカルナに続き、ディーアも辺りに視線を向けた。

 この異常な事態に魔術と関りの無い一般人も反応していた。河の対岸の民家には軒並み明かりが灯り、河の付近に人が集まりだしている。神秘の隠匿もあったものではない。唯一の救いは、濃い霧のなかでは巨体な海魔が見えないことだろう。

 キャスターの制御下にあったとしても無かったにしろ、このままでは周囲の多くの人間まで巻き込んでしまう。早く何とかしなくては。

 すると、周囲に視線を向けていたカルナがある一点を見つめた。


「マスター、向こうにライダーとセイバーの姿が見える」


 声に従ってカルナが言った方向を見てみれば、セイバーとアイリスフィールに合流したライダーとウェイバーを見つけた。同じように、セイバーにも休戦と協力を呼び掛けているのだろう。


「合流するか」
「ええ。急ぎましょう」


 ディーアは再びカルナの首元に腕を回して、二人はその場をあとにした。




× × ×




 セイバーに休戦を持ち出したライダーに、セイバーは油断なく構えながら、他に休戦を受けたサーヴァントを尋ねていた。


「……他のサーヴァントは」
「バーサーカーは論外。アーチャーは……声かけるだけ無駄だろう。あとは……おお、来たな」


 ちょうどその時、ライダーとセイバーの間にディーアを抱えたカルナが降り立った。

 突然目の前に現れたそれに、セイバーやアイリスフィールは警戒を露わにしたが、それを察したライダーが「此処に来るまで、ランサーの他にこやつらにも会ってな」と、協力者であることを端的に説明した。しかし、それで得体の知れない八人目の介入者を信用することは難しい。


「警戒するのも分かるが、今は奴をどうにかするのが先決ではないか、セイバーよ」


 そっとディーアを地面に降ろしたカルナが、警戒心をき出しにするセイバーにそう言葉をかけた。カルナの言う事はもっともで、今は目の前のキャスターをどうにかすべきだとセイバーも理解していた。セイバーは警戒をしながらも頷き、構えた剣を下ろす。


「……了解した。こちらも共闘に異存はない。しばしの盟だが、ともに忠を誓おう」
「ああ」
「フフ、こと戦となれば物分かりが良いな……どうした、マスター連中は不服か?」


 そこで、サーヴァントたちとは違って微妙な表情を浮かべるマスターたちに視線が向いた。主に向けられているのはアイリスフィールとウェイバーで、ディーアの面持ちはサーヴァントたちと近かった。

 無論、アイリスフィールもウェイバーも不服と言うわけではなかったが、サーヴァントたちの潔さについていけなかったのだ。ウェイバーはアイリスフィールへの警戒心を隠そうとせずチャリオットから見つめ、アイリスフィールもまたディーアを警戒してその動向を見つめていた。とはいえ、今はなにを差し置いてもキャスターの暴挙を止めなければならない。


「構いません。アインツベルンは休戦を受諾します。ライダーのマスター、それに八人目のマスター、宜しくて?」
「あ、ああ……」
「もとより、そのつもりよ」


 アイリスフィールの呼びかけに、ウェイバーははっきりとしない態度で頷き、ディーアは協力的に賛同を示した。これでキャスター討伐のための同盟が結成された。


「アインツベルン、さっき一騎目のランサーに聞いたが、キャスター本人と戦うのはこれが最初じゃないんだろ?」


 だからなにか策はないのか、とアイリスフィールに尋ねた。話を聞くに、どうやらセイバーと正規のランサーは、以前共にキャスター本人と戦闘をしたことがあるらしい。


「――ともかく速攻で倒すしかないわ。あの怪物、今はまだキャスターからの魔力供給で現界を保っているんだろうけど、自給自足を始めたら手に負えない」
「となると、魔力供給源をどうにかしないと。キャスター自身に、あれほどの怪物に供給できるほど魔力はない」


 アイリスフィールとディーアの言葉に対し、得心したセイバーが頷く。


「奴の、あの魔道書ですね」


 キャスターの魔導書――宝具『螺湮城教本プレラーティーズ・スペルブック』。自律式召喚魔力炉であるそれは、キャスターと共にあの怪物の内側にあるようだ。怪物に魔力を与えているのが、その破格の宝具であるのなら、それを破壊すれば怪物も消滅するしかないだろう。


「なるほどな。奴が岸に上がって食事をおっ始める前にケリをつけなきゃならんわけだ。しかし――」


 さも嫌そうに眉をひそめて、ライダーは怪物を見やった。


「当のキャスターは、あの怪物の奥底だ。一筋縄ではいかんな」
「無論、引きずり出す。それしかあるまい」


 ライダーのぼやきに、新たな声が背後の闇から応じた。姿を出したのは、ライダーの呼びかけに応じ、遅れて参陣した双槍を携えたランサーだった。いよいよ対キャスター同盟のサーヴァントが出揃った。

 ランサーは同盟を結んだライダーたちに歩み寄ると、その場にいるカルナに警戒の眼差しを向けた。八騎目のサーヴァントを警戒しない理由は無いだろう。


「よせよせ、今夜ばかりは休戦だ」


 そんなランサーに、ライダーはやれやれといった様子で言い放った。此処に居る以上、八騎目のサーヴァントであるカルナもこの同盟に参加していることは、ランサーも理解していた。


「……そうだったな。失礼した」
「構わん」


 ランサーは不躾な態度をしてしまったことを素直に詫びた。それに対し、カルナは大して気にしていない様子で頷く。これも、私情を捨て時には目的のために手を組む、戦乱の時代を駆け抜けた彼らの精神性ゆえのことだろう。

 話題は戻り、本題に入る。


「奴の宝具さえ剥き出しにできれば、俺の『破魔の紅薔薇ゲイ・ジャルグ』は一撃で術式を破壊できる」
「ランサー、その槍の投撃で、岸からキャスターの宝具を狙えるか?」


 セイバーの問いに、ランサーは不敵に微笑んだ。


「モノさえ見えてしまえば、雑作もないさ」


 それを確認してセイバーは、良し、と頷きライダーとカルナに視線を向けた。


「ならば先鋒は私とライダーそして二騎目のランサーが務める。いいな?」
「心得た」
「良し。ならば一番槍は余が戴くぞ!」


 セイバーの作戦に二人は賛同し、いち早くライダーが動き出した。ライダーはウェイバーをチャリオットに乗せたまま雷鳴を轟かせて、怪物に向かって行く。その後を追うように、セイバーはアイリスフィールと視線を交わしてから頷き、河の上を駆けだして行く。


「ランサー」
「ああ、任せろ」


 頷いたカルナの手に、ぼうっと炎が燃え出す。その炎はやがて黄金の鋭い槍へと姿を変貌させ、カルナの手に握られる。その槍は、本来カルナが持つ槍の前段階の姿だが、陰鬱なこの状況でも太陽のように黄金にそれは輝いていていた。


「マスター、お前は此処にいろ。なにかあれば令呪でオレを呼べ」


 そう言い残して、カルナは身軽な身のこなしで怪物に向かって行く。

 ――こうして、対キャスター討伐の血戦は幕を開けた。

対キャスター同盟

prev | next
table of contents