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「マスター、校内から殺気を感じる。気をつけろ」


マイルームを出ようとしたとき、何かを感じ取ったランサーが出て行こうとする夜月の背に、そう言い放った。
その注意に頷き、慎重に校内を歩く。そうして一階の廊下に足を踏み入れた途端、悪寒が身体を走り抜けた。


「動くな、振り向けば命はないぞ」


突然姿を現したランサーの言葉に、頷きかえす余裕もない。
あからさまな殺気。何者かに視られているような感覚。
間違いない。サーヴァントに狙われている。


「確認している余裕はない。合図をしたら走れ」


ランサーに目で了承を告げ、呼吸を整える。
1、2、3――


「今だ!」


ランサーの声に、はじかれたように駆け出した。

全力で走り、アリーナを目指す。その扉に逃げ込み、足を止めようとするが「安心するにはまだ早い。殺気はまだこちらに向いている。止まっていれば恰好の的だ」その言葉でさらに奥へと走る。
そうしてアリーナの中ほどまで走り抜けてきて、足を止めた。

――そういえば、この後……。

その瞬間。


「予想通りだな。分かりやすいマスターで助かったぜ」


何処からともなく聞こえてきた声に、ランサーが即座に動いた。


「……二つ矢か」


素っ気ないランサーの声と共に槍が舞う。
鮮やかな軌跡を描いて、それは二筋の光を打ち落とした。隙を狙った矢は、ランサーによって未然に防がれた――ように見えた。

一本の矢が夜月にめがけて真っ直ぐと飛んでくる。それをわずかに視認できた彼女は咄嗟に身を引く。だが、腕に微かな傷が一条刻まれていた。
鈍い痛み。それを確認するのが早いか、体中を鈍いこみ上げるような嘔吐感が支配する。

ランサーは姿を現さない敵に警戒をしながら、背後で膝をついたマスターを伺う。


「狩りに特化した戦い。2本の矢を落すため槍を振った瞬間、槍でできた俺の死角を狙ったか。敵ながら賞賛するほどだ。間違いなく、アーチャーのクラスだろう」


毒に身体を蝕まれながら、絶たれそうになる意識を振り絞る。
早く学園へ帰らなければ。振り絞った力で起き上がろうとした。


「何モンか知らねえけど、アンタは洒落にならない英霊様だ。そいつァよーくわかる。案の定、オレの二つ矢を見事ふせいでみせた。まったく、大したもんだよ」

 
ランサーは辺りを見回している。音が反響して敵の居場所が掴みにくいのだろう。
それを承知の上でか、サーヴァントは癇に障る笑い声を上げた。


「オレはアンタみたいのと正面からの打ち合いなんざ、はなっからゴメンでね。アンタらにはここで、確実に降りといてもらわないとな」

「……何をした」

「おっと、怖い怖い。残念だが、3本目の矢には1番つえー毒が塗ってある。ただの強い毒じゃねぇ、まだ意識を保ててんのが不思議なくれぇだ。あんたも、運が悪かったな」


力をいれて起き上がろうと床についた手がぷるぷると震えた。
そろそろ限界だ。

サーヴァントの種明かしを聞かされたランサーは、すぐさま夜月に駆け寄る。顔色を伺うが、酷いものだ。
サーヴァントに警戒をしながら、ランサーは彼女の手を掴み自分に引き寄せる。


「夜月、捕まっていろ。できるだけ、身体を丸めていたほうがいい」


身体の浮上を感じたのと共に、視界に白と赤が広がる。
わずかに動く手を伸ばし、赤を掴む。


「チッ、しぶといなアンタ」


驚き、忌々し気に放つ言葉。

夜月を抱えたランサーは急いでアリーナの出口へ向かった。
そうはさせまいと背後からサーヴァントは矢を射てくるが、それは全て一瞬顕現させた槍で切り落とされる。
その行為に、またアーチャーは舌打ちを鳴らした。

そうしてたどり着いた出口。学園に戻ろうとする二人をアーチャーは影から狙っていた。
弓を引き、いつでも放てる状態。しかし、放つことはなかった。
出口に人影はもういない。それを見て引いていた弓から力を放し、アーチャーはそっと息を吐いた。

アリーナから学園に戻ったところで、すでにアーチャーからのさっきは消えた。


「マスター。しっかりしろ、マスター! 神楽耶夜月!」


いつになく焦った声を出すランサー。それに応えるように、夜月はゆっくりと瞼を開けた。
だが力はなく、今にも……。


「だ、い……じょう、ぶ……」


弱々しく伸ばした手がランサーの頬を一撫でした。
その行為と、こんな状況下でも微笑む彼女にランサーは目を見張り、驚く。
やがて夜月は今度こそ意識を手放し、ランサーは急いでマイルームへ帰還した。




Third day

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