廊下の中央に、褐色の肌をした少女がまるで自分を待っていたかのように、こちらを見ていた。
「ごきげんよう。こうしてきちんとお話しするのは初めてですね。私はラニ。貴方と同様、聖杯を手に入れる使命を負った者」
何度か見かけたことがあるが、彼女の言う通りこうして会話をするのは今回が初めて。
機械的な表情と言葉。
ラニは照らす星を詠んでいたという。夜月だけではなく、他のマスターたちも同様に。
その中でも、自分だけが霞に隠れた存在だったようだ。
「あなたは、何なのですか?」
率直な言葉だ。
表情を変えずに問いてくる彼女に、夜月は微笑んだ。
「わたしは私よ」
「正体を隠すのですか? 昨日、ブラックモアのサーヴァントにはあんなに無防備だったのに」
見られていた、という事実に夜月は驚いた様子など一切見せなかった。
此処では情報戦なのだ、見られていても不思議ではない。その回答にランサーも同意した。
「私は、もっと星を観なければならない。お願いです。ブラックモアの星も……みせてほしいのです。いかがでしょう? 私の頼みを、聞いてもらえますか?」
この申し受けは夜月にとって無益になることはない。彼女に協力すれば、少なからずダン・ブラックモアの情報が得られるのだから。
すぐに返答を返さなかったせいか、ラニは言葉を続けた。
師の言っていたことを探すのだと。人間というものの在り方を。だから見せてほしいと。
「今から三日後、その時までに異物をお持ちください。ごきげんよう、ではまた」
ラニはそう微笑んだきり、廊下から見える空に目を移した。
それを合図に夜月も足を動かした。向かうのはアリーナ。
アリーナの入り口に着くと、夜月が扉に手をかざす前にランサーが姿を現した。
「マスター、相手の手掛かりを探すのは賛成だ。油断はできないが、少なからず彼女に敵意や嘘はない。ここは、協力するほうが良いだろう」
「貴方と同じ考えよ。さっそく遺物を探しに行きましょう」
「あぁ」