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Individuality grasp test


「「個性把握テストォ!?」」


唐突に宣言されたそれに、A組のほぼ全員が驚きの声をあげた。


「入学式は!? ガイダンスは!?」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。」


麗日の質問に、淡々と無駄なく答える相澤。
しかし、麗日の質問も御もっともだろう。


「雄英は"自由"な校風が売り文句。そしてそれは"先生側"もまた然り。」


ちらりと相澤は横目に生徒を一瞥すると、今回のテストの内容を説明していく。
要は体力テストだ。個性使用禁止で行われる体力テストの種目と同じものを行う。


「爆豪。中学の時のソフトボール投げ何mだった」

「67m」


相澤は入試実技一位の成績を持つ爆豪に聞いた。
全員の視線が集まると同時に、相澤の目は黙ってろとでも言いたそうにこちらを見つめる。


「じゃあ"個性"を使ってやってみろ、円からでなきゃ何してもいいよ早よ。思いっ切りな」

「んじゃまぁ」


ニヤリと笑って、振りかぶった爆豪は球威に爆風を乗せて思い切り投げた。
そして。

「死ねぇ!!」


放たれた球は猛スピードで飛んでいく。
遠くの方でやっと落ち、相澤の端末が電子音を鳴らすと、そこには705.2mという数字が映し出されていた。


「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

「なんだこれ!! すげー面白そう!」

「705mってマジかよ」

「"個性"思いっきり使えるんだ!! さすがヒーロー科!」


周りの人間が思い思いに、感動の声をあげていく。
しかし、その中で相澤の低い声が響いた。


「面白そうか。ヒーローになる為の3年間そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう」

「「はああああ!?」」


下を向いていた相澤が目線を上げつつ言った言葉に、生徒達は驚き、声を上げた。
そんな困惑する生徒達を前にして、相澤は髪を掻き上げると楽しそうにニヤリと笑う。


「生徒の如何は先生の"自由" ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ」


そうは言っても、不安そうな顔をする生徒達。
代表するように麗日は意義を申し立てた。


「最下位除籍って……! 入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても……理不尽すぎる!!」


そう訴えたが、彼は至って冷静。そして淡々と語る。


「自然災害、大事故、身勝手な敵たち……いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれている。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー。"Plus ultra"さ。全力で乗り越えて来い。さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」


"Plus ultra"という言葉と最下位除籍という言葉に、みんなやる気に満ちた顔つきへと変わっていった。
何より個性を使ってのテスト。みんな試したことがない。それに対しての楽しみもあるのだろう。

第一種目は50m走。

みんながそちらに向かって動いていく中、ふと夜月が呟いた。
雄英は自由が売り文句。先生もそれは然り。


「除籍とかしそうだなあ・・・・・・」

「あら、あれは嘘でしょう」


呟いた独り言に応えたのは、たまたま隣にいた女の子だった。
背の高い彼女を見上げる。


「そう? 相澤先生なら本気でああいうことをする人だよ」


嘘だという彼女にそう答えれば、彼女は驚いたように目を丸くする。


「私、八百万百と申します。よろしくお願いしますわ」

「瓦楽夜月。八百万……百って呼んでもいいかしら?」

「勿論ですわ! 私も夜月さん、とお呼びしても?」

「えぇ。よろしく、百」


最初の女友達ができ、二人は50m走をする場所へ足を進めた。
二人は出席番号的に一番最後で、夜月にしてたった一人で走ることになる。

今のところ、一番早くて飯田の3秒04。
それを超えた人はいない。


「次、21番」


相澤に言われ、夜月はスタートラインへと向かった。


「頑張ってください、夜月さん!」


先ほど終えたばかりの八百万が応援してくる。
夜月は「ありがとう」という代わりに、微笑んで軽く手を振った。

スタートラインに立てば、相澤がピストルを掲げる。
夜月は構えることなく、立ったまま。それに周りは訝し気に夜月を見た。

ピストルの引き金が引かれる。
その瞬間、夜月は息を吸い、言葉を吐く。


「『加速』」


パァン――!

ピストルが鳴る。
スタートラインには夜月の姿はもうなく、ゴール地点。相澤が端末を見て言う。


「0秒05」

「ゼ、ゼロ!?」

「アイツの個性なんなんだ!?」


その結果に、周りの人が驚愕の声をあげる。
一人が黒髪の男で、もう一人が金髪に黒のメッシュが入った人だった。

0か。まぁ、こんなところだろう。
一人感想を思っていると、よく知る人が駆け寄ってくる。


「流石だな、瓦楽。お前の『想像』は」

「……そう?」


轟にそう聞き返せば、彼は「あぁ」と答える。
短い会話だ。

次の種目に行こうと足を動かすと、麗日という子が目を輝かせて烏あって来た。


「瓦楽さん凄いね、0秒!! あ、私麗日お茶子! よろしくね! 夜月ちゃんって呼んでもいい?」


そう言ってニッコリと笑う。


「よろしく」


夜月もそれに合わせ、ニコリと微笑んだ。

二種目は握力測定。
場所は変わって体育館だった。


「540キロって!! あんたゴリラ!? タコか!」

「タコって、エロいよね……」


障子の驚異的な数字に瀬呂は興奮気味に言う。

人数分機器があるわけではなく、数人の組に分かれて行っているため自分の番が来るのを待っている。
21番だ。来るのは遅い。

すると、向こうで騒いでいた瀬呂と障子がそれに気づき、手を振ってくる。
そちらに向かうと丁寧に機器を渡してきたので、さっそく測定をした。

今度は『想像』で、と思ったが上手くいかず。結果は普通の女子程度だった。


「あ、やっぱ普通の女子?」

「え?」


出された数字を除いた瀬呂が、そんなことを零した。


「いや、さっき凄かったからさ。俺、瀬呂範太! よろしくな」

「障子目蔵、よろしく」

「えぇ。瓦楽夜月、よろしく」


第3種目、立ち幅跳び。第4種目反復横跳び。
これらも個性を使って難なく高得点を出し、自己目標をクリアする。


「アンタ、さっきから凄いね」


そうつぶやいたのはパンキッシュな女の子。
確か、耳郎響香といった。

他の人たち同様に短い自己紹介をして、着々と友人の輪を広げていく。


第5種目はボール投げ。


「セイ!」

「∞(無限)!? すげえ! 無限が出たぞー!!」


出したのは麗日。個性を聞いてみると、無重力らしい。
麗日は測定を終えると夜月のところへ駆け寄り、隣へ来ると緊張の息を吐きだした。


「凄いね、麗日」

「もう、お茶子って呼んでよー!」


そんな事を話しながら、測定をする人たちを見る。
途中で飯田も二人の会話に加わり眺めていると、次は緑谷出久の番だ。彼の表情はだいぶ暗い。


「緑谷くんはこのままだとマズイぞ……」

「ったりめーだ! 無個性のザコだぞ!!」


言葉を零した飯田の言葉に、爆豪が突っかかる。
その言葉に、今度は驚いたように飯田が言った。


「君、入試の彼を知らないのか」

「は?」


二人の会話を横目に、夜月は彼を見る。
第一投は46m。やはりぱっとしない。しかし、投げた本人が困惑するという奇妙な状況。
そして話全ては聞き取れないが、相澤が彼に何かを言っている。夜月としては、彼が何をやったのかわかっているが。

緑谷は最後の一球を見つめ、投げる。
勢いよく放たれたボールはとてつもないスピードで空に向かって飛んでいく。

緑谷は指は壊れているが、必死に涙をこらえ痛みに耐えると、真っ直ぐ相澤を見た。


「先生……まだ、動けます!」


彼の数値は705.3m。
このテストで初めて、そして、唯一出した驚異的な数値であった。


「やっとヒーローらしい記録が出たよー」


緑谷が驚異的な数字をたたきだすと、麗日は自分のことのようにはしゃいでいる。


「指が腫れ上がっているぞ入試の件といい……おかしな個性だ」

「スマートじゃないよね」


飯田、青山もそれぞれに言う。
爆豪はと言うと、予想外のことに驚きを隠せないのと同時に、怒りが湧いてきていた。


「どーいうことだこら! ワケを言えデクてめぇ!!」

「うわああ!!!」

突如として飛び出した爆豪に緑谷は叫び声をあげる。
喧嘩勃発。といったところで相澤が布のようなもので止めた。


「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ"捕縛武器"だ。ったく、何度も"個性"使わすなよ……俺はドライアイなんだ!!」

「「(個性凄いのに勿体ない!!)」」


心の中で皆が叫ぶ。
相澤消太の個性は見たものの個性を消す個性であり、瞬きすると解けるのだ。


「時間がもったいない。次準備しろ。」


フッと個性を解除すると、相澤は次を促した。
残りは数名。さっさと終わらせ、結果発表になった。


「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する。」


結果が表示されると、夜月の結果は上位クラス。
そして最下位の名前を見ると、緑谷出久

驚異的な数字をたたき出したのはボール投げ1回きり。
彼は悔し気に唇を噛んだ。


「ちなみに除籍はウソな」


唐突なその言葉に、ぽかんとしたのは言うまでもない。


「君らの最大限を引き出す。合理的虚偽」


楽しそうに笑う相澤を見て、やっぱりね、と確信する。
向こうで麗日と飯田、緑谷は驚いている。


「やっぱり嘘でしたわね」

「付け足しな気もするけどね」


二人の会話を聞いたクラスメイト達は「マジかよ……」と感想を述べる。
そんなこんなで、無事、個性把握テストは終わった。