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Security breaking through


昼。
4限目の終わりのチャイムが鳴ると、みんな弁当屋ら財布を持って食堂などに向かう。


「瓦楽」

「ん? あぁ、今行く」


轟に呼ばれ、内容を予測した夜月は財布を持って立ち上がる。
二人で食堂に向かい、好きなものを頼み、席に着いた。

早めに言ったせいか席は結構空いていた。
いつも通り、向き合って座り食事を勧めていると轟が遠慮がちに口を開く。


「瓦楽」

「なに、轟」

「昼、それでいいのか?」

「……? だから食べてるんでしょ」


轟の昼食は蕎麦。対して、夜月の昼食はなんとパンケーキだった。
デザートに分類するであろうそれを昼食として食べる夜月。

夜月はパンケーキを綺麗に切って、口に運ぶ。


「君が私の食事に何か言うなんて、珍しいね」

「……体調、悪そうにしてたから」


轟の言葉に、進めていた手を止めた。
どうやら彼は心配していたらしい。


「べつに。ただの個性の反動だから、気にしないで良いわ」

「そうか?」

「えぇ」


そういって、二人は止めていた手を進める。
3口目あたりの頃、プレートを持った男三人が二人のもとへやってきた。


「よ!」

「一緒に食おーぜ」


やってきたのは切島、上鳴、瀬呂。
三人は二人が答える前にプレートを机に置き、強制的に5人で食事をとることになった。

基本的、話題は三人がふる。
轟や夜月はそれに応えるという、そんな会話形式だった。


「お前らっていつも一緒にいるよな」


そう言ったのは上鳴だった。
続いて瀬呂が言う。


「さっきも、一言だけで内容理解してたしな」

「聞いてたの?」


聞き返せば、たまたま聞こえてしまったらしい。
轟はそばを食べる手を止めずに応える。


「まぁ、中学から一緒一緒だしな」

「え、マジで?」

「えぇ」


それなら納得、と三人は頷く。
次の質問はこうだ。どちらが先に話しかけたか。

三人からして、どちらも自分から話しかけに行くタイプには見えない。
甚だ疑問だったのだろう。

それには轟が答えた。
声をかけたのは轟。強制的に入らされた委員が同じで、最初の会話がそこ。
その後、たまたま帰りが同じ道で一緒に歩いていたときと、例の引かれそうになった子を夜月が助けたのだ。
その日を境に轟は夜月に話しかけるようになった。


「やっぱお前、かっけぇよ! 男前だな!」


それを聞いて反応する切島。


「いや、女子に男前って……」

「ありがとう、切島」

「いいの!?」

「いいんだ……」


上鳴、瀬呂は「それでいいのか」と言いたそうな目をしてくる。
そんな時――校舎内全てに警報が鳴り響いた。


『セキュリティ3が突破されました』

『生徒の皆さんはすみやかに屋外に避難して下さい』


ざわつく生徒たち。
雄英高校でこんなことが起こるとはだれも思うまい。誰もがパニックを起こした。

5人もアナウンスに従い避難したが、出入り口はパニックを起こす人だかり。
人に流され、簡単に瀬呂たちとははぐれてしまう。

轟は咄嗟に夜月の腕をつかんで引き寄せる。
そのため、逸れることはなかった。しかし突然、さらに人が流れ込み轟は人に押される手を放してしまう。


「っわ!」

「瓦楽!」


手を離した途端、夜月は人の海に流されてしまう。
とても彼女の力では、自力で轟のもとへはいけない。


「(っ……苦しっ……)」


人になさがれ、地に足がつかない状態。それに加え押しつぶされている。
夜月はいっそ『言霊』で動きを止めてしまおうかと考え、息を吸う。だが人に押され言葉が吐けない。
言葉を吐くのでさえ困難だ。

次の瞬間。


「……? うわっ!」


手首を強く握られたかと思えば、勢いよく引っ張られる。
人ごみの中を引っ張られ、されるがままでいると窓側の壁にたどり着いた。

誰かの手が夜月を挟んで壁に置かれる。
そのおかげで夜月は楽な体制に戻ることができた。

いったい誰であろう、と恐る恐る見上げるように振り返れば、そこには爆豪がいた。
爆豪は夜月を庇いながら立っており、夜月の視線に気づくとキッと瞳を鋭くさせる。


「見てんじゃねぇよ、銀髪女!」

「ご、ごめん」


さっと視線を戻し、見ないようにする。
何故、爆豪が自分を助けたのか疑問だ。交わした言葉の数は無に等しく、まったく接点がない。
あるとすれば、いつだかの下校時にネクタイを掴まれたことぐらいだ。

夜月はこのまま黙っているのも……と思い、爆豪が見えない程度に首を動かす。


「ありがとう……」

「……フンッ」


爆豪は何も言わなかった。
未だに流れてくる人。夜月は結構楽になったが、爆豪は辛いだろう。
やはり止めてしまおうと息を吸うと、この空間に飯田の声が響いた。


「大丈ー夫!!」

「あ?」

「飯田?」


ざわざわとした雑音がやみ、声のした方に目を向ければEXITの文字盤の上に張り付いた飯田。


「ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません大丈ー夫! ここは雄英!! 最高峰の人間に相応しい行動をととりましょう!」


飯田の言葉で、やっと人の流れも止まり落ち着きを取り戻した。
夜月が疲れたと息を吐きだすと、爆豪は壁から手を放し振り返ってあるきだそうとする。


「あ、爆豪!」


咄嗟に呼び止めてみたが、爆豪は一瞥するとさっさと行ってしまう。
伸ばした手は行き場を亡くし、空で停止。夜月は溜息を落とす。


「瓦楽!」


呼ばれたほうを向けば、轟が人を掻き分けてこちらに駆け寄ってきていた。


「悪ぃ、大丈夫か? 何処も怪我してねぇか?」

「そんなに慌てなくても平気よ、何処も怪我なんてしないから」


慌てる轟に苦笑しながら、夜月は大丈夫だと伝える。
轟はそれに安堵の息を吐いた。
手を放してしまったことを気にしているらしい。


「取り敢えず、戻ろうか」

「あぁ、そうだな」


轟と夜月はそう言い、食堂に戻っていった。

その後、ホームルームで委員長直々の指名ということで飯田が委員長に決定した。
もれなく「非常口飯田」というニックネームを携えて。