第26話



練習試合が終わり、相手校の監督とコーチからひと言と貰うと、選手たちは後片付けをはじめた。マネージャーである夜月や潔子もそれは同じで、潔子はドリンク洗いを申し出た。夜月は代わりに選手たちと一緒に体育館の後片付けに向かった。

ネットなどはすでに影山や日向が片付けている。あたりを見渡した結果、夜月はモップ掛けをしようと用具室に向かおうとする。すると、目の前に赤いユニフォームが立ちふさがった。

見上げると、目の前で通せんぼをしたのは音駒の主将だった。目を丸くして見上げれば、向こうはニヤニヤと笑いながらこちらを見下ろしてくる。


「えっと・・・・・・なにか?」


確か名前は、黒尾さん・・・・・・だったはずだ。黒尾は夜月の質問に答えず、じっとこちらを見下ろしてくるだけ。進展しない状態に、夜月は黒尾を避けて用具室へ行こうとする。だが黒尾が伸ばした腕がそれを阻止した。


「なんですか?」


夜月は少しイラついた声色で言った。


「いやー、ちょっと驚いちゃってさあ」

「・・・・・・? 驚くって、いったいなにが・・・・・・」

「なあ」


黒尾は少し夜月の言葉を被せるように、口にした。それで押し黙った夜月は必然と次に放たれる言葉を待った。黒尾はニヤついた表情をやめ、口を開く。


「もうバレー、やらねえの?」

「っ!」


その言葉に、顔が強張った。この人もそうだ、と夜月は直感する。及川と影山と同じく、黒尾も知っているのだと確信した。開いた口からは言葉は出ない。見下ろしてくる目を見るしかできなかった。

「なあ」ともう一度黒尾が口を開こうとしたその時、横から邪魔をされた。


「あの。その人ウチのマネなので、ちょっかい出さないでくれます」


横から入ってきた声に、黒尾も夜月もそちらへ目を向けた。そこに立っていたのは月島で、月島はじっと黒尾に目を向けていた。その目を見て、黒尾は「ふーん・・・・・・?」と零し、口元をニヤつかせた。


「ちょっかいなんてひどいなあ。少しお話してただけなのに」

「へえ? 僕にはそうは見えなかったですけどねぇ」


黒尾の言葉に月島も愛想笑いを浮かべて返す。
月島に田附られたとほっとしていると、突然月島に腕を掴まれて引っ張られた。


「君もなに絡まれてるのさ、行くよ」

「え、ちょ・・・・・・」

「え〜? 忘れ物したままでいいの?」


腕を引っ張られそのまま立ち去ろうとすれば、黒尾はそう声を上げた。振り返れば、黒尾は片手で携帯を見せびらかしていた。その形態は紛れもなく、夜月のものだった。一体いつの間に盗られたんだ。


「と、いうわけで。連絡先交換しようか、夜月ちゃん?」

「え、ちょっと、勝手に・・・・・・!」


自分の携帯も出して勝手に操作して連絡先を登録する黒尾に、夜月は手を伸ばして携帯を取り返そうとするが、身長差ゆえに悠々と避けられる。あっという間にそれを終えた黒尾は「はい、どーぞ」と携帯を返す。


「そんじゃ、お邪魔も入ったことだし。後で連絡するから、ちゃんと返信しろよ?」


それを言い残すと、用は終えたとばかりに黒尾はその場を後にする。残された夜月は、返された携帯を見下ろす。及川の時と同じだ。デジャヴを感じる。


「ロックくらいかけたらどうです?」

「うん・・・・・・そうするよ」


隣で月島ははあ、とため息を落とした。


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