第25話



「正直言って、俺達は顔合わせたばっかの面子でデコボコでちぐはぐで、しかも今日がこの面子での初試合」


みんなは黙って、真剣に大地の話を聞いている。


「そんで相手は未知のチーム。どんな戦いになるか、わからない。壁にブチ当たるかもしれない。でも壁にブチ当たった時は、それを越えるチャンスだ――行くぞ!」

「オス!!」


__そして。


「音駒高校対 烏野高校 練習試合を始めます!」

「しアス!」

「しアース!!」


因縁の対決が始まった。
選手たちが試合開始のため、それぞれの配置につく。

清水と夜月がノートを取る方を決めていると、突然烏養が夜月を呼んだ。


「夜月……あぁ、いや紫炎。お前はこっちで解析だ」


そういって自分の隣の席をバンバンと叩く。
清水に目を向けると、行ってきてというように微笑まれた。


「……わかりました、コーチ」


夜月は不本意に思いながら、烏養の隣に座った。


「いいか、お前は分析やら解析やらを『策士』らしく今はやってろ。俺は使えるもん、全部使っていくからな」


まぁ、レシーブとサーブ練習は控えさせてやると付け加える。


「不本意だが、それくらいなら納得してあげるさ」


夜月は上から目線でそう告げた。
二人の会話はそこで終わり、試合に集中する。


最初の1点目は、日向と影山の変人速攻を見せつけた。
それに音駒は驚いている。


「すげえっ何!? 速えっ!」

「あんなトコから速攻!?」


それから烏野がリードするも、点差が大きく開くわけでもなく。


「なんか、気持ち悪いな……」

「どうかしましたか?」


ふと零した烏養の言葉に、武田が反応を示す。
夜月は試合を見つめながら、横目で烏養を見る。


「いや、なんか観察されてるっつーか……」

「されてるだろうね」


夜月の言葉に、烏養はやっぱりかと零す。
試合から目をそらさず、夜月は語る。


「観察してるのは、主にあのセッターかな」


現在、烏野−音駒、14−11。
点差はどんどん縮まり、ついには追いつかれてしまう。


「日向の速攻が効かなくなってきてる。それに伴って、囮が効かないから全体にも伸びが見えない」

「慣れられたか……」

「試合中、一人だけを追ってればね。慣れてくるさ」


ピピーッ!!
笛が鳴り響き、第1セット終了。


「やっと捕まえた!」


烏野−音駒、22−25。
一つ目のセットは音駒が勝った。


第2セット開始。
今度は音駒がリードを引いた。日向の速攻は完全に慣らされ、ブロックに捕まり続ける。

そんな時、日向がまた速攻に飛んだが空振りをし、後ろにどてーんとひっくり返った。


「あ……今……」

「今、日向トスを見た……!」

「たっ! タイムッ!」


予想外の出来事に、烏養はすぐにタイムアウトをとった。
駆け寄ってきた選手の一人、影山に烏養は言う。


「影山! 日向にいつもより少し柔めのトスを出してやれ。いつものダイレクトデリバリーじゃなく」

「インダイレクトデリバリー……」


まだ試したことはない。なんて言ったって、今の出来事は予想外の予想外なのだから。
影山は少し悩んだが、「やります」と言ってコートに戻っていく。


そうして試合は開始されたが、追いつくことはなく、烏野は負けた。
セットカウント2ー0。勝者、音駒高校。


「あああ……」


武田がそんな声を零す。


「……完敗だな。ウチにしてはミスも少なかったし、ウチの強力な武器はキッチリ機能してた」

「そうね。チームとして鍛えられたチームの音駒。烏野はまだ、チームとして弱い」

「……ああ」


と、その時。


「もう一回!!」


日向がそう叫んだ。
物足りない。まだやりたいと。
すると音駒の監督がそのつもりだと言った。


「もう一回がありえるのが、練習試合だからな」


体力があるものだ……。
夜月は部誌ではない、ただのノートを開き、シャーペンを走らせた。


そして、気がつけば夕方。
もう3試合やっている。だというのに、日向はもう一回と言い続ける。

けれど、音駒も新幹線の時間があるため今回はここで終わった。
"全国の舞台で、ゴミ捨て場の決戦をやろうと″残し、練習試合は幕を閉じた。


選手たちは相手側の監督、コーチの所へ集まる。
清水と夜月は一歩後ろに下がった場所で、烏養と武田の話を音駒の選手と共に聞いていた。

真っ赤なユニフォーム。

昔、よく宮城に来ては烏養監督のとこへ行き、彼の暇つぶしがてらバレーをしていた。
身内に容赦ないため、よく逃げ出したものだ。
そんな時、たまにゴミ捨て場の決戦を聞いていた。だから音駒のことはよく知っていたのだ。

夜月は赤いユニフォームを見て、そんなことを思いだしていた。


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