第22話



翌日、5月3日――。


体育館で清水と一緒にスポーツドリンクの用意をしていた。
今、選手たちは外へ出て走っている。

そんな時、烏養が体育館にやってきた。


「なぁ、日向来たか?」

「いえ、来てませんけど」


清水が答えると、烏養は困ったなぁと頭をかく。
話によれば、日向は一人突っ走ってしまい、そのまま迷子になってしまったという。

あの子ならやりそう……と、二人は思った。

夜月は烏養に頼まれ、日向を探しに行くことになった。時間がもったいないため、他の部員はその間練習をする。
夜月は清水に後を任せ、体育館から出た。


……とはいっても、日向の行方など見当もつかない。
話によれば、真っ直ぐは知っていたらしいが、道も多く困ったものだ。

それに、夢中で走っているのだから道を考えているわけではなさそうだし、考えていたらもはや迷うこともなかっただろう。
だとしたら……


「ねぇ、そこのキミ。ちょっといい?」


そんな推理らしきものをしていると、背の高い男に話しかけられた。
目立った赤いジャージ。その人は愛想笑いをして問いかけてくる。


「この辺でプリン頭の奴、見なかった?」

「プリン、あたま……?」

「そう」


なんて特徴的な人だろうか……。きっと、染めた髪をそのままか何かにしたのだろう。
夜月は記憶をたどりながら目の前に立つ人を見る。


「(赤いジャージ。それに、ローマ字の文字……この人、音駒の人か)」

「(黒いジャージに、さっきの背中の高校名。コイツ、烏野のマネか?)」


お互いがお互いのジャージを見つめ、そんなことを考えた。


「いえ、見てません。あぁ、オレンジ色の髪をした小さめの男子見てませんか? こちらも迷子で」

「いや、見てねぇな」

「そうですか」


目的人物の情報は得られず、二人は違う方向に進んでいく。探している人物を見つけるために。
夜月は辺りを見渡しながら歩いていくと、話し声が聞こえてきた。

そちらの方に足を向け、歩き出すと案の定、日向がいた。
そこには先ほどの人と同じ赤ジャージを着た、プリン頭の男子。その人は夜月の存在に気付くと、日向にそっと耳打ちをした。


「あの人、翔陽のとこの人じゃない」

「え? あ! 夜月さん!!」


日向は元気に手を振ってくる。
夜月はまったくと呆れ笑いをして駆け寄った。


「翔陽、探したでしょ。もうみんな、練習に戻っちゃったわ」

「うぅ、すみません……」


日向はそうして項垂れる。
そんな日向を横目に、隣の男子を見る。夜月を見ていた彼は、夜月と目が合った途端目をそらした。


「あ、コイツ弧爪研磨って言って、二年生! あと、研磨と同じ二年の紫炎夜月さん!」

「ど、どうも……」

「こんにちわ。なんか、この子がお世話になったみたいで」

「べ、別に……」


未だ目はそらしたまま。
気弱そうなところや声の小ささからして、きっと人見知りなのだろう。


「あ。そういえば、貴方を探してた人がいましたよ。同じジャージで、背の高い人」

「え、あぁ、多分……」

「研磨!!」


低めの声が響いた。
目を向けると先ほどの人が立っていて、彼――弧爪研磨――を呼んでいた。


「あ、クロ……またね、翔陽」


研磨は立ち上がり、振り返りざまに小さく手を振って駆け足でその人のもとへ行った。
翔陽は流れで手を振るが、『また』という部分を疑問に思っていた。


「……さ、私たちも戻るよ。繋心……コーチがお怒りかもしれないし」


日向は想像して怯え、二人は駆け足で体育館まで走っていった。


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