第21話



「揃ってんな」

「オス」


荷物も運び、いつも通り練習を始める。


「4日後には音駒と練習試合。終わればすぐにIH予選がやってくる時間がない。でもお前らは穴だらけだ。勝つ為にやることは一つ。練習、練習、練習。ゲロ吐いてもボールは拾え」

「オス!!!」


返事をしたのは日向で、みんなそれに苦笑してしまった。


その日、練習が終わったのは7時過ぎだった。
片付けは選手に任せ、潔子と早めに合宿所へ行き、夕食の準備をする。今日はカレー、合宿の定番だ。

夕食の準備は武田も手伝ってくれ、三人で行うものだからすぐに終わった。


「夜月ちゃん、そろそろみんな来る頃だから」

「あ、わかりました。見てきます」

「うん、お願い」


足早に入口の方へ行くと、既に選手たちはいた。
そこで田中たちが何かを言っている。


「一日中、むさ苦しい連中と顔つき合わして何が楽しいのさ」

「おい月島てめえ! 半径500m以内に潔子さんと夜月が居る空間はむさ苦しくねえんだよ!」

「清水は家近いから用事終わったら帰っちゃうよ。いつも、そうじゃん」


菅原がそう言うと、田中と西谷は絶望とともに顔から倒れた。
丁度それを目の前で見ていた夜月は、呆れた顔でいた。


「はぁ……何やってんの、龍、夕」


それを聞くと二人はバッと顔をあげ、だんだんと希望に満ちた顔つきへと変わっていく。


「そうだぜノヤッさん!! 俺らにはまだ、夜月がいるじゃねぇか!!」

「お前が残ってくれてよかった……!!」

「部屋は当然違うんだし、会うのは結局此処までだ。いてもいなくても同じだろう」


そしてまた、顔面から倒れこむ二人。というか、会う気でいたのか……この二人は。
それを呆れ顔で見ていた月島と縁下。


「バカなんですか」

「バカだね」

「バカ以外の何でもない」


その後、お代わりを繰り返す選手たちに周ってご飯を差し出す。
大半が食べ終え風呂へと向かっていくと、清水は武田に送られて帰っていった。

夜月は細々とした確認をすべて終えると、烏養に練習について呼ばれていたので、それに向かった。
そこで30分ほど話すと、与えられた部屋へ行き、最後の最後で風呂に入った。


「ふぅ……」


風呂に入り終え、後は眠るだけだったのだが夜月は入り口付近にある自動販売機まで行き、百円玉を入れた。
缶に入った飲み物を買い、それを近くのベンチに座って飲んでいた。
目を横に向ければ、ガラスの扉から空が見える。

ぼんやりとして、何分経っただろうか。何故だかあまり、眠くない。
きっと、繋心と話した内容のせいもあるだろう。


「何してるんですか」


ビクリと肩を揺らし、声のした方を見るとそこに月島が立っていた。
月島の目は訝しくも、機嫌が悪いようにも見える。


「蛍こそどうしたの?」

「僕は何か飲みに来ただけです」


月島は夜月の隣にある自動販売機に小銭を入れて、ボタンを押す。
出てきた小さいペットボトルのふたを開け、一口飲むとまた口を開く。


「それで、紫炎さんはどうしたんですか。こんな夜中に」


そこで時計を見ると、針は12を刺していた。ちょうど、12過ぎぐらいだ。
結構な時間、此処にいたらしい。


「私は……多分、君と一緒かな」


残っていた缶の中身を飲み干す。


「あ、それと、君も名前で呼んでよ。私だけってのは、なんだか……」


月島はきゅっと口をつぐんだ。
嫌だな、と続けようとしたがそんな月島を見て言葉をのんだ。誤魔化す様に微笑むと、苛立ったように眉間にしわを寄せる。


「……戻りますよ。部屋、何処ですか」

「え? ああ、いいよ。場所、近いし」

「いいから。行きしますよ」


月島は強引に夜月の腕をつかみ、そのまま廊下を進んでいく。前を向きながら一切目を合わせず、部屋を訪ねる。
沈黙が続いた。死を賭を聞きながら歩いていると、ピタリと立ち止まる月島。見上げると、そこには自分の部屋があった。


「ありがとう、蛍」

「いえ……」

「……じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみなさい……紫炎さん」


パタリ……。静かな音を立て、扉が閉まった。
夜月は部屋の中で布団へと進み、月島は自分たちの部屋へ戻るべく歩き出す。


「嫌われてるの……かな……」

「……イライラする」


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