第19話



翌日の部活。


「なぁ、ノヤッさん。こっち来れない間のトレーニングって、何やってたんだ?」


ストレッチをしている西谷を見て、所々のあざや擦り傷を見つけた田中はそう聞いた。


「んー、主にブロックフォローだな。ブロックされたボールを拾いまくる特訓。ボールを取れれば、お前らもスパイク安心して打てるだろ?」

「ノヤッさん……アンタマジかっちょいい」


感動して田中は涙を浮かべる。


「な、何泣いてんだお前……」

「泣くほどか……」


そんな時、武田がやってきた。
澤村の集合の呼びかけで先制の周りに集まると、そこにはよく知っている人がいた。


「紹介します! 今日からコーチをお願いする 烏養君です!」

「コ、コーチ!? 本当に!?」

「音駒との試合までだからな」

「はぁ……」


期限付きという事に、澤村はそんな答え方をした。
すると烏養は夜月を見つけ、軽く手をあげた。


「よ。ちゃんとメシ食ってるかー?」

「なら坂の下の食品、半額にしてくれないか?」

「ざけんな」


宮城に来てから、この同じ会話を何度か繰り返している。


「え、でも坂ノ下の兄ちゃんだよな? 本当にコーチ? つか何で夜月はそんな仲良さげなんだ?」

「彼は紫炎さんの遠い親戚で、君達の先輩であり、あの鳥養監督のおまごさんです!」

「エーッ!?」

「マジかよ!?」


その場にいる全員が驚いた。
あの監督の実の孫が目の前に。そして、夜月がその彼らと親戚同士だったことに目を見開いた。


「時間が無えんだ、さっさとやるぞ! お前らがどんな感じか見てえから6時半から試合な! 相手はもう呼んである!」

「え、相手!?」

「烏野町内会チームだ」


烏養は色々な人に電話を掛けている。
相手は社会人。そう簡単に集まらないだろう。


「……くっそ〜。やっぱ平日のこの時間に全員は無理か……悪いなお前ら、急に来てもらって!」

「うィース」

「なつかしーっ」


体育館に数人の男の人達が入って来る。男の人達は二十代後半くらい人だ。


「もっとオッサンかと思ってた」

「俺も」


そんな彼らを見て、二人は素直な感想を述べる。
しかし、それは失礼だろう……と夜月は苦笑した。

烏養がそろそろ始めると言うと、みんな各々動いていった。
しかしその中で一人、西谷だけが動かず、烏養はそんな西谷に声をかける。


「なんだ? ワケありか? 怪我か?」

「いや、そういうわけじゃないよ。繋心」

「一応コーチって呼べよ……よくわかんねえけど、じゃあ町内会チームに入れるか? こっちのリベロ来らんないんだよ」


悩んだ西谷に小さく「どうする?」と問いかける。
西谷は参加することにして、コートの中へ行った。


「あと2人か……どーすっかな。ベンチ組からか」


そう呟いていた時だった。


「あっアサヒさんだっ!!」

「え……」

「……!」


日向が窓の外を見てそう叫んだ。西谷を筆頭に、二、三年は目を見開いた。
烏養はやや怒り気味でドアを開け、旭に叫ぶ。


「なんだ遅刻か、ナメてんのか! ポジションどこだ! 人足んねえんだ、さっさとアップとってこっち入れすぐ!!」


困り気味の旭。
やがて彼はアップをはじめ、とうとう体育館に足を踏み入れる。


「あとはセッターか……俺やりてえけど、外から見てなきゃだしな。お前らの方から一人セッター貸してくれ」


二人はそれぞれ目をそらした。
そして動いたのは菅原だった。一歩一歩と重く進んでいく。


「俺に譲るとかじゃないですよね。菅原さんが退いて俺が繰り上げみたいなの、ゴメンですよ」


背中から言い放つ影山。
菅原は淡々と語り始めた。その手は、強く握られていた。


「……俺は、影山が入って来て正セッター争いしてやるって思う反面、どっかで…
…ほっとしてた気がする。セッターはチームの攻撃の軸だ。一番頑丈でなくちゃいけない。でも俺はトスを上げることに……ビビってた」


これは、菅原の告白。
あれからずっと、彼の胸の中にあった彼の真実だった。


「俺のトスでまた、スパイカーが何度もブロックに捕まるのが恐くて、圧倒的な実力の影山の陰に隠れて、安心……してたんだ!」

「……」

「スパイクがブロックに捕まる瞬間を考えると今も恐い……けど。もう一回、俺にトス上げさせてくれ……旭」


正面から、菅原は旭に言った。


「だから俺はこっちに入るよ、影山……負けないからな」

「俺もっス」


prev back next