第15話



翌日――。


夜月はその後、強制的に連絡先を登録され貰われてしまい、夜中まで及川に付き合わされた。
電話が終われば思えば、次はメール。そしてしつこく聞いてくるのだ。

夜月は都合の悪い事や面倒くさいことはすべて無視し、やっと携帯が鳴りやんだ。
そこから寝付いたためか、夜月は寝不足だった。

午後の授業からは睡魔との戦いだ。
やっと授業が終わり、放課後となる。
すると、クラスメイトの男子が扉を指さしながら伝えてくる。


「紫炎ー。一年の客、来てるぜ」


誰だ? そんな疑問を持ちながらバッグを持って扉へ行くと、そこには思ってもみなかった人がいた。
影山だ。


「ど、どうかしたかい?」


驚いたせいか、言葉が詰まってしまった。


「ちょっと付き合ってくれませんか」

「あぁ……いいけど。よくクラスわかったね」


クラスを教えた記憶はないのに、よくたどり着けたものだ。
田中あたりに聞いたか、など思っていると影山らしい見つけ方をしていた。


「全部覗いてみました。そしたら五組が最後だったんで」


それは苦労しただろう……。

影山の後ろをついて歩いていくと、たどり着いたのは体育館。どうやら、練習に付き合ってほしいらしい。
影山は練習着のTシャツに着替え、夜月もジャージに着替える。
影山はボールを持つと、いきなり夜月に聞いてきた。


「どうしたら、及川さんみたいなサーブが打てますか!」


まさか、マネージャーに聞いてくるとは思わなかった。
影山の威力は強い。だとすれば、次に足りないはコントロールだ。


「それなら及川さん自身に聞いたらどうだ?」

「中学の時から断れ続けてます」


あぁ、あの人ならやりそうだ。と、納得してしまった。
だが、自分はマネージャーなのだ。アドバイスならまだしも、それ自体を教えるとなると。


「影山、私は"ただの"マネージャーだ」

「でもバレー経験者です」


『ただの』を強調したというのに、影山は言い返してしまう。
夜月はそんな影山に溜息を落とした。


「……何故私にこだわるんだ。サーブなら、他にも上手い人がいるだろうに」

「そ、それは……」


すると影山が目を泳がせ始めた。
影山の頭の中では、言ってもいいのだろうか……という疑問がグルグルと回る。

夜月はそんな彼を見て、思い至った。

――彼は、知っているのではないか?
驚いたように自分を見つめた目、アドバイスを求めてくる姿勢、東京出身と言って確信へと変わった瞳。
影山も及川と同じだったらしい。

夜月がそう悟ると、まるで仕方ないと言うような息を吐きだす。
おもむろに歩き出した夜月は空のペットボトルを出し、影山がいる反対のコートにそれを置いた。


「このペットボトルを狙って、強くサーブを打ち込んでみて」

「はいっ!!」


影山は彼女の意図を読み取ると、早々と構えた。
そして言われた通り、ペットボトルを狙ってジャンプサーブを打つが、ずれてしまう。それを何度か繰り返す。


「クソッ」


そして、打つ。
そんな様子を、夜月は真剣に見つめた。

やっと命中をしたところで夜月はペットボトルを拾い、影山に言う。


「命中したが、コントロールに気を使い過ぎて威力が落ちている。それでは拾われてしまうよ。コントロールの意識も大事だが、決して力は抜くな」

「やってみます!」


夜月がまた違う場所にペットボトルを置く。

影山が力いっぱいにサーブを打ち込む。――当たる。
そう思っていると、いきなり現れた日向にレシーブされてしまう。それもうまく返せず、日向は転ぶ。


「おい! 邪魔すんなボゲ日向ボゲェッ! 今当たったかもしんねえのに!」


日向は影山くんに怒鳴られてしゅんとする。夜月は困ったなと苦笑した。
影山はもう一度サーブを打つ。
でも、そこにはまた違う誰かがいた。


「おおーっ! すっげえサーブじゃねーか、すげぇ奴入って来たな」


背の小さい、レシーブの上手い男子。
日向や影山がポカーンとする中、夜月が何度目かの息をつく。それに気づいたその男子は夜月に笑っていった。


「お、夜月! 久しぶりだな! ちゃんと飯食ってるかー?」

「大きなお世話だ。それと邪魔をするな、夕。今は彼が練習してるんだ」

「うぐっ……最初の一言がソレかよ……」


夕と呼ばれた男子はガックリとする。
そんな彼に、夜月はクスクスと笑い、「そうだな」と零す。


「お帰り、夕」

「おう!!」


ニカッと、夕は笑った。


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