第11話



翌日――。


「で、練習試合のポジションだけど……コレでいこうと思う」


そこには日向や影山、月島の名前もあった。試合に出るのはその三人と澤村に田中、そして縁下だ。
清水はそれらをノートに書き込み、夜月はその隣でボードを眺めた。


「影山と日向はセットで使いたいし……月島はウチでほ数少ない長身選手だ。青城相手にどのくらい戦えるか見たい」

「はぁーい」


月島は適当な返事をした。
その隣にいた山口は落ち込んでいる様子だ。


「ていうかデカさが重要なポジションに日向スか!?」

「MBって、ノッポヤロー月島と同じポジション!?」


田中が言った後、日向が驚いた様子で言う。のっぽと言われた彼は不快そうな顔をする。
それに影山が日向を指さしながらビシッという。


「良いか! 日向お前は最強の"囮"だ!!」


「おおお!? 最強の囮!? おぉぉ……なんか、パッとしねえぇ……」


最初は『最強』という文字に喜びを見せたのだが、囮というのに魅力を感じないのかテンションが下がっていった。
皆が不思議そうにする中、影山が囮という意味を説明しようとするが、その言葉を夜月にとられてしまう。


「なるほど。つまり囮である日向は全力で飛び、スパイクを打つ。が、そこにボールが来るかはトスを上げる影山次第。全力で飛ぶ日向に敵選手は翻弄されるというわけだ」

「そんな感じです」


影山が頷く。まさに、影山が言いたいのはこのことなのだ。
田中はそんな夜月に感心し、褒めたたえる。


「おぉ! さすが夜月! あれだけで囮の役割を理解しやがる!」

「そりゃ、君より何倍も頭がいいしな」


わざと皮肉屋な言い方をする。言い返せない田中は顔を引きつらせる。
囮の役割を聞いた日向はテンションをあげたが、影山の一言で終わりを告げる。


「……逆に、お前が機能しなきゃ他の攻撃も総崩れになると思え」

「ちょぉ!?」


澤村が声をあげる。不思議そうに首をかしげる影山。
日向は「そうくずれ……そうくずれ……」と、呪文のように繰り返す。


「ひ、日向!? 大丈夫か!?」


菅原が尽かさず駆け寄り、フォローに入る。
そんな彼らを、動じない月島や山口と夜月は眺めた。


「……緊張に弱いタイプか」

「弱すぎデショ」




火曜日、放課後――練習試合当日。

あっという間に練習試合の日がきた。ジャージを着てバスに乗り込む。

夜月は清水の隣に座り、役割分担の話をした。
基本、バレーのルールではベンチに入れるマネージャーは一人。しかし、今日は練習。二人とも入ることになる。


「ドリンク準備と、ノートの記録。どっちがいい?」

「じゃあ私はドリンクで。重いですし」

「あ、それなら私が……」

「いえ、私、力には自信がありますから。潔子さんはノートのほうをお願いします」


そして、二人で役割を分担すると必ず夜月はドリンクをすることとなる。
その理由の一つが重いという事だが、毎回この調子で清水は納得しない。

なんとか納得してもらうと清水はクスリと笑う。それに首をかしげる。


「やっぱり、夜月ちゃんは紳士だね」

「え。そうですかね……?」

「うん。縁下からよく聞くけど、夜月ちゃん、女子に紳士でモテるってうちでは有名らしいよ」

「……潔子さんも有名だと思いますよ」


そう。夜月は二年の間では結構有名人だった。
成績がいいと言う理由もあるが、女子には紳士的というのが一番の理由だ。だから女子によくモテる。
そして夜月も清水と同じく結構、美人の枠に入る。

清水がクールで清らかな綺麗の美人だとしたら、夜月はカッコイイ系のクールで知的な綺麗の美人だ。
二人がクールなのは変わらないが、やはり微妙に違う。そして、夜月は極めてマイペースな性格だ。


そんな他愛のない会話をしていると、バス内に田中の叫び声が響いた。


「うわあああ!! バス止めてえぇ!!」

後ろを振り向くと、そこには田中が立ち上がりながら叫び声をあげ、誰かが床に座り込んでいた。
日向だ。どうやら返してしまったらしい。


「ど、どうしたの? 夜月ちゃん」

「潔子さん、何か二枚袋ありませんか。 みなさん、窓開けてください! 換気をして!」


夜月はそう呼びかけると、清水から袋を貰い走っているバスの中を歩いて二人のもとへ向かった。


「龍、それを入れて。大丈夫かい、日向」


袋をわたし、汚れてしまったそれを袋に詰めるように言う。
もう一枚の袋を日向にわたし、背中をさすりながら問いかける。


「さ、さっきよりは……すみません……」

「良いさ。さ、ゆっくり座って、外の息を吸って落ち着くんだ」


日向をさすりながら座席に座らす。
夜月はバスが学校に着くまで日向に付き添い、背中をさすった。

あぁ、これは……どうやら結構やばいらしい。


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