第10話



帰りは部活のみんなで帰った。
清水は道が違って別れてしまったが、そのほかの全員は同じ道を辿った。

夜月はゆっくりと坂道を下っており、月島と山口と話している。


「そういえば、君らは幼馴染か何かかい?」

「はい、ツッキーとは小学校からの幼馴染で」

「へぇ」


基本話をしてくれるのは山口で、月島は話すつもりがないのか、あまり口を開こうとしない。
夜月はこれから部員となる彼と、どうにか仲良くなれないものかと何度目かの苦笑を零す。


「紫炎先輩にはいないんですか? 幼馴染」

「あぁ……私、もとは東京にいてね。まぁ、向こうにもいなかったけど」

「え!? そうなんですか?」


山口はびっくりとした。
東京生まれの都会人が、こんな田舎に引っ越すことは珍しい。


「親の転勤とかですか?」

「いや、親は海外。私は親戚に預けられてるって感じかな。まぁ、一人暮らしだけど」

「それなら、こっちに来なくても平気だったんじゃないですか?」


結局一人暮らしをしているのだ。なら、わざわざ生まれ育った場所を離れることはない。
それを聞かれた夜月は気まずそうに眼を逸らす。


「……まぁ、いろいろねぇ」

「……」


山口は不思議そうに首をかしげる。
二人の会話を隣で聞いていた月島はなんとなく、夜月に視線を送っていた。

それから大地が肉まんをおごり、みんなで分け、各々家へと向かう道に分かれていく。
去年まで夜月と同じ道に行く人はおらず、一人で帰っていたが、今年は一年生が一緒だった。
途中で一人、また一人と別れ、月島と山口が残ったが山口も途中で別れ、最後まで一緒だったのが月島だった。

月島は一向に自分から話すことはなく、夜月がなんとか声をかける。


「君もこっちなの?」

「でなきゃ歩いてないです」

「まぁ、そうね……」


何かを言うたび、こう打ち消されていまい、長続きがしない。
すると、やっと月島が自分から話を振った。


「……どの辺に住んでるんですか」

「え?」

「紫炎さん、一人暮らしなんでしょう。なら、アパートかマンションですよね」

「あぁ、うん。もうすぐ着くアパートだよ。一番烏野に近いアパートが此処しかなくてね」


引っ越す際にいろいろ探したが、今住んでいるところしかなかったのだ。
あるにはあるのだが、老朽化が進んでしまったアパートぐらいで、綺麗なのが此処。少し歩くが、仕方がない。

そんなことを話していると、あっという間にアパートまでたどり着いてしまった。


「私は此処だから」

「はい」


アパートを指さして夜月は言う。


「それじゃあ月島、おやす……」

「あの」


おやすみ、と言おうとすると月島によって言葉はかき消された。
夜月は被せられたことに気にすることはなく、愛想良く微笑んで「なに?」と聞く。月島は何かを言おうと口を動かすが、一向に言葉は出ない。

夜月が首をかしげると、月島は開け閉めを繰り返した唇をキュッと紡ぐ。


「……いえ、なんでもないです」

「そう?」


彼が何でもないというのだ。なら、それでいい。


「じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」


月島はそう返し、アパートへ向かっていく夜月の後姿を見つめた。
彼女が二階に上っていくのを確認すると、月島は通り過ぎてしまった道を引き返すため、歩き出した。


夜月はそのままアパート内に入り、外階段を上った。部屋は二階の一番端。
扉にカギを差し込んで、回すところでふと思う。

あぁ……なんだかんだで、送ってもらう形になったなぁ。

お礼でもいえばよかったと夜月は月島がいた場所を振り返る。するとそこには来た道を戻る月島の姿があった。
そこで気づいた。あぁ、彼は自分を送ってくれたのだ。

挑発上手で皮肉屋、無気力気味という印象だった月島だが、根は優しいのかもしれない。
そんな発見をした夜月は嬉しそうに笑うと、部屋へと入っていった。


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