第9話



「おめでとう、影山、日向」

「アザーッス!!」


パチパチと拍手を添えて、夜月は二人にお祝いの言葉を述べた。
二人は嬉しそうにした。

夜月は清水と一緒に試合の後かたずけやらいろいろしていると、影山と日向が「キャプテン!」と言い、返されてしまった入部届を渡した。
澤村がそれを受け取ると、おもむろに清水と夜月に振り返った。


「清水、夜月、アレ……もう届いてたよな?」

「はい、届いてますよ」


清水は静かに頷いた。
夜月はそそくさと何かを取りに行き、段ボールを抱えてきた。二人がそれを開け、清水が日向や影山にあるものを渡す。


「うほおおお!!」

「多分サイズ大丈夫だと思うけど、何かあったら言って」

「あざーす!」


日向はジャージを見て歓声を上げる。
早速ジャージを着る日向と影山に、清水はそう声を掛けた。

夜月はもう二枚のジャージを手にして月島と山口のもとへ行く。


「はい。こっちが君で、こっちは山口」

「どうも」

「あ、ありがとうございます!」


大き目の黒いジャージを手渡す。
日向たちとは違い、すぐに着ない二人を見た菅原は駆け寄ってくると肘でつつきながら言った。


「お前も来てみろよ〜」

「いや 僕はあとでも……」

「いいじゃないか、着てみれば」


そう後押しすると月島は面倒くさそうな顔をし、山口はそれを苦笑しながら見守った。
結局ジャージを着た二人は、先輩たちによって日向たちの隣に立たされ、見物される。

新入部員の一年がジャージを着て、一列に並んだ。


「おー! いいじゃんいいじゃん」

「ふむ……なかなか似合っている」


四人を見て、菅原と夜月は言う。
すると日向は目をキラキラと輝かせて夜月に駆け寄った。


「カッコイイですか! 小さな巨人に見えますか!?」

「うん、かっこいいよ日向」


子犬のような日向に、夜月はまるで小さな子を褒めるような言い方する。
すると影山が日向を押しのけ、ズイっと勢いよく迫る。


「夜月さん! 俺はどうですか!!」

「え、うん。似合ってるよ。中学より似合ってるじゃないか?」

「アザッス!!」


勢いに負け、少し後ずさりながら褒める。
それを見ていた月島が冷めた目で吐き捨てた。


「アホらし」

「あぁ!?」

「あぁもう、君ら喧嘩はするな」


突っかかる影山を押さえ、呆れながら夜月は言う。
試合をしていた時から思っていたが、この二人のペアは険悪だな……。

そんなことを思っていると、体育館のドアが勢いよくあいた。
顧問の武田一鉄だ。バレー経験はなく、今年からの顧問。


「組めた、組めたよー! 練習試合っ!! 相手は県のベスト4! 青葉城西高校!!」


まさかの練習試合相手は、強豪青葉城西。
何故組めたのか、疑問である。


「ゲッ」

「はは、まさかの青城ですか」

「どうやって組んだんだろ……」


各々が口を零す。
いい経験にはなるが、レベルが違い過ぎる。


「先生、青城なんて強い学校とどうやって……!?」

「まさか、また土下座を……!?」


菅原や澤村はそう聞く。


「してない、してない! 土下座得意だけどしてないよ、今回は!」

「今回はって……」

「いや、土下座はやめてください」


澤村と夜月はつかさずそういう。
御下座をされた相手顧問やコーチは、いったいどんな気持ちをしているのだろう。

すると武田は眼鏡をクイっと押し、言いずらそうに言った。


「ただ……条件があってね」

「条件?」

「影山君を、セッターとして出すこと」


これには誰もが驚いた。とくに菅原には、大変心に来ただろう。
目を見張って驚いていると、田中が青筋を立てて言う。


「な! なんスかそれ、烏野自体は興味無いけど影山だけは、とりあえず警戒しときたいってことですか。なんスか、ナメてんスか。ペロペロですか」

「龍、気持ちはわかるがその語彙力はなんだ」

「い、いや、そういう嫌な感じじゃなくてね えーと……」


田中の語彙力なのさに突っ込みをいれる夜月。武田は田中に押されて言葉を詰まらせてしまった。
すると、菅原がおもむろに口を開く。


「良いじゃないか。こんなチャンス、そう無いだろ」

「い、良いんスか、スガさん! 烏野の正セッター、スガさんじゃないスか!」


やはり、最初にそう言ったのは田中だった。
菅原は一度沈黙を置いたが、語りだす。


「……俺は、日向と影山のあの攻撃が4強相手にどのくらい通用するのか見てみたい」


それは確かに気になることだ。
あんな速攻、あの二人以外にはできないと言えるぐらいなのだから。

何より、正セッターである彼がいうのだ。納得せざるを得ない。


「……いいんじゃないですか」

「夜月! お前まで」

「孝支さん自身が言うんだ。私たちが口に出すようなものじゃないだろう?」


田中を咎めるように夜月は言うと、そのまま押し黙ってしまった。
菅原はそんな夜月にありがとうとでも伝えるように、頭をグリグリと撫でまわした。

これは彼の癖だ。去年からよくやってくる。

それから、先生から試合の詳細について聞いた。場所は向こうの学校。
それらを聞きおえ、余った時間を練習に使い、今日の部活は終了した。


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