第5話
「特にお咎めもないらしい。謝罪もいらない」
教頭に連れられた大地が帰ってくると、そう伝えた。
菅原や田中、夜月は安堵の息を吐く。
「が、何も見なかったことにしろ」
ギクリと肩を揺らす三人。
まぁ、当たり前だよね。
「だが、お前ら……」
「お前がちゃんとサーブとらないからだ下手くそ! 何が去年までと違うだ、ふざけるな!」
「いちいち一言余計だな!」
未だ喧嘩を続ける二人。
そろそろやめた方がいい、そんなことを思っていると時すでに遅し。大地の声が響いた。
「なぁ」
大地の一言で二人の言い合いは一時終わった。
その中で菅原と田中は青い顔をして距離を取り、夜月は「あぁーあ」と呆れ笑った。
「少し聞いてほしいんだけどさ、お前らがどういう理由で烏野にきたかは知らない。でも、当然勝つ気で来ているだろ」
「はい!」
「もちろんです」
日向と影山が返事をする。
「烏野は昔、県内トップを争える強豪だった。一度だけだが全国にもいった。でも、今はよくて県ベスト8、特別強くも弱くもない。他校からの呼び名は”落ちた強豪”、”飛べない烏”」
大地は話を続けた。
春高を出た近所の高校生たちを見て鳥肌が立ったと。
「全国室上。とりあえず目標に掲げてる学校はいくらでもありますよ」
「なぁッ!? またお前は余計な……」
「心配しなくても、ちゃんと本気だよ」
大地の顔に少しビビった影山。
確かに怖いよね、と同情する。
「そのためにも、チーム一丸にならなきゃいけないじゃん。だから教頭にも目をつけられたくないんだよ」
あぁ、これは本気で怒っている。
そう確信すると、先に距離を取っていた二人のもとへ夜月も下がった。
「俺はさぁ、お前らにお友達になれって言ってんじゃないんだよね。中学に、ネットを挟んだ敵同士だったとしても、今はネットの内のこっち側同士だってことを自覚しなさいって、言ってんのね……」
大地の顔を見た瞬間、二人は真っ青な顔をした。
背筋に冷汗が通っただろう。
「どんなに優秀だろうが」
影山の肩に手を置く。
「一生懸命でやる気があろうが」
日向の肩に手を置く。
「仲間割れをし、チームに迷惑をかけるやたらは要らない!!!」
そういって外にだし、入部届を返す大地。
「互いがチームメイトと自覚するまで、部活には一切参加させない!!」
ドアを勢いよく閉める。
「……はぁぁぁぁぁぁ!!!??」
外で二人の叫びがよく響いた。
「えー!! え、なに!? チームメイトの自覚って何!!?」
「俺が知るか!!」
「い、入れてください! 俺、ちゃんと影山とも仲良くしますから!!!」
大地に外に出された二人は、外から叫んだ。
体育館内では腕を組んだ大地。外から聞こえてくる叫びのほうを見つめる夜月。
「いいのか、貴重な部員だろ? てか、チームメイトの自覚って徐々になって行くもんだろ」
「でもなぁ...」
外では未だ叫んでいる。
影山の叫びを聞いた途端、ゆっくりと大地は扉を開け「本音は?」と問いかける。その答えに、大地は息を吐く。
そして持ち出した話が、あともう二人の一年と勝負をすること。
セッターをやらせないという大地に激怒を見せる影山。
そんなこんなで、勝負をすることとなった。
しかし、まともに練習する場所がない二人。どうするのだろうと思っていると、田中がわざとらしく言う。
「あ、あぁー、明日も朝練7時からっすよね?」
「え、そうだけど。いきなりどうした?」
「い、いや、教頭のカツラはどうなったんすかネ……」
「おい! その話やめろ!!」
そっと夜月が窓から二人の様子を確かめると、練習場所を見つけた二人は立ち上がり、歩いて行って仕舞った。
あぁ、そういうこと。
納得した夜月が田中に目を向ける。田中は親指を出し、ドヤッとした顔を見せた。
「そういうことだ。お前も来い!」
「えぇー、朝何時だと思ってるのよ……面倒くさい」
「そこを何とか!!」
手を合わせてくる田中。
溜息を落とし、了承するかと思いきや。
「ヤダ」
「夜月ーッ!!!」
「田中煩い!!」
最後に大地叫ぶ。
結局、早朝五時の練習に田中一人で面倒を見ることとなった。
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