第4話



「もぅ、どうしてそんな事言うんだ影山」


澤村が仲裁に入るが、二人はすでにそんな声は聞こえない。


「俺だって、精一杯……ッ!」


日向の言葉が一瞬止まった。頑張った。けれど、結果が負け。
悔しいのか、日向は唇を噛み締める。


「でも! 今までの事全部! 無駄だったように言うな!」


全てを否定されたように感じた日向は叫んだ。


「おまえらさぁ、もう敵同士じゃないってわかってる?バレーボールは繋いでなんぼ……」

「勝負しろよ! 俺と!」


仲裁に入った澤村の言葉に被せ、ビシッと指を影山にさしていう日向。
田中がすぐに言葉を入れたが、もはや聞こえない。


「おい! 大地さんの話の途中だろうが!」

「あぁ? 何の勝負だ」

「バレーの! 決まってんだろ!」

「一対一でどうやって試合するんだ!」

「あ、パ、パスとか」

「パスに勝ち負けとかあんのか?」


日向たちの会話を聞きながら澤村に目を移すと、あからさまに顔が引きつっている。


「あー、大地さん?」

「聞けやごらぁ!」

「騒がしいな、バレー部」


そこで、思ってもみなかった声が響いた。
目を向けると、そこには教頭がいる。思わず「あ……」と菅原と夜月は声を零す。

あぁ、嫌な予感しかしない……。


「げ、教頭……」

「先生をつけなさい、ばか」

「先生」


田中にそっと耳打ちをすると、即座に付け足す田中。
菅原や澤村は顔を引きつらせ、焦っているのが目に見えている。


「喧嘩じゃないだろうねぇ」

「ま、まさか、切磋琢磨ってやつですよ。な?」


澤村が同意を求め、日向や影山に目を移す。
田中が日向に耳打ちをするが、完全無視。いや、もはや二人の世界に入っていて聞こえないのだろう。


「なにかと問題ごとにいしたがる教頭だから、お前ら大人しく……」

「サーブ、うてよ。全部とっってやる。」

「ぉおーい!!!」



ビシッと影山を指さす日向。


「お前のサーブ、去年は一本しか取れなかったからな。もう去年までの俺とは違う」

「去年とは違う、か」


影山は転がっていたボールを手に取る。
それを日向に向けると、ニヤリと笑みを見せる。


「俺だって、去年までとは違うぜ?」

「こらこら、やめなさい君たち」


「あの、大地さん顔引きつってるんですけど、大丈夫ですか」

「夜月、シッ!」


ボソっと菅原に言った夜月。菅原は言うなと人差し指を立てた。
日向は影山のサーブをとるためにかまえ、影山もサーブの準備をする。さて、どんなサーブだろうか。


「行くぞ」


ジャンプサーブ。影山のジャンプサーブはとても速く、そして強いものだった
日向もそれに驚きよけて転んでしまう。力強いサーブに圧倒されてしまった。

夜月は感嘆の声を漏らす代わりに、「へぇ……」とでも言うように唇を鳴らす。


「それの、何処が去年とは違うだ」


影山の言葉に、日向はもう一本だと言う。
澤村が痺れを切らし強く注意をするのだが、無駄に終わってしまう。

影山はもう一度ジャンプサーブの準備をして飛んだ。
そのサーブは日向の横に行っていて、日向は素早くそれに気づいた。


「……早い」


だがちゃんと受け止めていなく、顔に当たり違う方向へ。


「こんなことじゃ・・・」


その直後、あたったのは教頭の頬。その勢いで教頭のカツラが飛んだ。カツラは大地の頭にすっぽりとはまる。
唖然とする中、最初に笑ったのが夜月だった。


「ぷっ……ふふ」

「あれ、ヅラだったのか」

「ぷ、気づくのおせーよ。入学式にみんな築いてたぞ」


日向と影山は平然と会話をする。


「ぷ、おおまえら、やめろよ。ぷぷ」

「田中も辞めろ!!」

「澤村君、ちょっといいかな」

「……はい」


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