第3話



澤村、菅原、田中、紫炎が入部届を眺めながら体育館に着くと、そこには新入生がいた。
一人は背の高い黒髪の男子。北川第一でセッターをしていた子だ。
もう一人は背の小さい男の子。トイレに行こうと迷っていた子だ。


「ちわっす」


挨拶をしたのは天才セッターの子だった。
夜月の隣で威嚇を始める田中。夜月は横目で田中を呆れながら見た。


「おうおうおう、おめーら勝手に……」


そこまで言うと澤村に首根っこを掴まれ回収させられる。


「君が影山だな、よく来たなぁ」

「結構大きいね」


菅原は彼の身長に感嘆した。
確かに高身長だ。見上げるのがつらいくらいに。


「最初が肝心っすよスガさん、3年の威厳つのをバシッと言ってやってください」


田中は何が気に入らないのか、注意されたばかりだというのにその顔をやめない。
夜月は溜息を吐きながら、呆れるように言った。


「龍、さっき孝支さんに言われたばかりじゃないか。その顔をやめろ」


はぁ……と溜息を落とし、新入部員に目を向けた。すると、目が合ったのが影山だった。
影山は驚いたように目を丸くし、じっと夜月を見つめた。


「……」

「……?」


不思議に首をかしげる夜月。影山は未だ目を丸くしている。

何処かであったことがあるだろうか。いや、身に覚えがない。
そんなことを考えていると、後ろの子に気づいた。真っ黒なジャージに目を輝かせている。


「ちわっす!」


大声で言ったつもりだが、夜月以外は彼に気付くことはなく、影山に質問を投げかけていた。


「身長いくつだ?」

「180です」

「うわー」

「何だと生意気な!」


180もあればそりゃ大きいわけだ。と、感嘆とする。
夜月は少しだけ後ろの子に目を移す。すると、その子は大きく息を吸って。


「ちわっす!!!」


体育館に声を轟かせた。
それに一番に反応したのが田中だった。


「あぁ? あ! お前、ちびの一番!!」


そういって指をさす田中。


「え、じゃぁ、もう一枚の入部届の日向って……お前か!」


三人は納得し嬉しそうに言うが、唯一夜月だけが首をかしげていた。
三人は知っていたような口ぶりだが、夜月は取れを案内した記憶しかない。


「知り合いなんですか?」

「ん? あぁ、そっか。お前、試合見に来なかったもんな」


澤村がそう言うと、続けて田中が説明をした。
どうやら中学生の試合を見に行った三人は、そこで影山と日向の試合を見たらしい。日向という子のバネが素晴らしかったらしく、記憶していたそうだ。


「そうそう! ていうか、居るの気付かなかった……」

「あぁ、それは気づいてました」

「え!?」


菅原に少しクスクスと笑う。
日向はそんなやり取りをしているのを眺めていると、夜月の事を思い出し、声をあげた。


「あっ! 入学式んときの!!」

「入学式?」


澤村が疑問を口にすると、夜月が説明した。
日向はバッと効果音がつくような、そんな礼をして礼を告げた。


「あの時はありがとうございました!」

「ん、どうしたしまして」


片手をあげ、気にしないでと微笑しながら夜月は言った。
その隣で澤村が改めて二人を見つめた。


「いやぁー、驚いたなぁ。そうか、お前らどっちも烏野か!」


嬉しそうに澤村は言った。


「あの……」


おずおずと日向が何かを聞きたそうにする。
それを察した菅原が口を開いた。


「俺達、去年のお前らの試合見てたんだ」

「お前ちびで下手くそだったけど、ナイスガッツだったぞ!」

「あ、あざっす!!」


日向は嬉しそうにした。
彼らが絶賛するのだ。自分も見に行けばよかったと夜月は内心思う。


「バネもすごかったよなぁ」

「それにしても、あんま育ってねーなぁ」


そういって身長がというようにジェスチャーをする田中。


「お、俺、小さくたって飛べます! 烏野のエースになって見せます!」


来てそうそうエース宣言する日向。頼もしいことだ。
ふと目に入った影山を見ると、あからさまに顔を歪めていた。


「おいおい、入ってそうそうエース宣言か。いい度胸してんじゃねぇか」

「ヒィッ!」

「いいじゃん志が高いほうが、なぁ?」


菅原がそう言って、夜月に目を向けた。


「そうですね。高ければ高いほうが良いんじゃないですか」

「が、がんばります!!」

「お前、エースになるっつってんだからには、ちゃんと上手くなってんだろうな?」


騒がしかった体育館に、きつい言葉が突き刺さった。
影山の言葉に一瞬顔をしかめた日向。

夜月たち四人は彼らを見守る。


「ちんたらしてたら、また3年間ぼうに降るぞ」

「なんだと……」


日向は振り返り、影山を強くにらみつける。


prev back next