第1話



高校二年の、春――四月。


「ん、んん.......」


欠伸を噛み締めて、両手を力一杯に空へと伸ばした。視界の端には咲き誇る桜の木がある。

今日は入学式。

夜月は二年のため新入生の入学式に在校生として参加するのだが、面倒臭くなって始まる少し前からサボっていたのだ。
すると、次に視界に入ったのがチョロチョロと挙動不審に動く、オレンジ色だった。

その男の子は制服を着ているし、あんな子は見たことがない。だとすれば、新入生だということがわかる。

夜月はその子の後ろから近寄り、声をかけた。


「君、どうかしたの?」

「ひょ!?」


肩をビクつかせ、あからさまに驚いたその男の子は恐る恐ると振り返る。
立っていたのが女子生徒だとわかると、安心したように安堵の息を吐き出す。


「で、どうしたの? 新入生でしょ、君」

「え、えっと……トイレってどこですか?!」


お腹を抱えたその子は切実に伝える。
どうやら、トイレに行こうとして迷ったらしい。

夜月は少し呆れ笑いをして場所を教えた。


「トイレはあっち。すぐそこだよ」

「あ、ありがとうございます!!」


その子は急いで指をさした方へ急いだ。体育館から近かったというのに、気付かなかったのだろうか。
夜月はそんな、小さな男の子の背を微笑しながら眺めた。


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