第1話



中学三年の夏。

ピィー!!と、試合を告げる笛が鳴り響いた。
公式試合に使う市内の体育館内には、観客や相手の選手の歓声が耳を刺す。

試合が終わり「あぁ、負けたんだ」と確信するまでもなく、負けはすでに目に見えていた。
負けた自分たちのチームは、負けたという事実に涙を流すわけでもなく、不満に何か言いたげの眼差しでこちらを睨みつけていた。

床に落ちていく汗を拭わず、ただじっと相手チームの喜ぶ背を見つめていた。


試合が終わってすぐ学校に戻り体育館に集合した。
監督やコーチの言葉を聞き終え、二人が体育館を後にすると選手のみんなはおもむろに立ち上がった。

その直後、一人の選手がある選手に怒鳴りつけた。

感情に任せた怒鳴りは体育館に響き、言葉も口に出すたび棘が鋭くなっていく。
怒鳴りつけた選手に影響されるように、他の選手も口を開き、同じように怒鳴りつける。

睨みつける眼光が鋭くなるのを見つめた。刃のように鋭利になっていく言葉を聞き続けた。
一切顔色を変えない彼女に苛立った選手は、近くにあったバレーボールを鷲掴みし、あろうことか彼女に投げつけた。
幸運なことに、ボールは彼女の真横を通った。


選手らは口々に文句を零しながら一人を残し、苛立ったまま体育館を後にする。

彼女は一人残された体育館で真横を通ったボールを両手で拾い上げる。
そのボールをしばらく見つめると、パッと手を放しボールを捨てた。


――あぁ、もういいや。


ボールが床をはねる音がする。
彼女は荷物を持つとそのまま体育館の出入り口に向かい、外へと歩き出す。夜月は一切、振り返ることはなかった。


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