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災難な休日-2


電気屋から自宅へと帰った豹徒は愕然とした。
理由は簡単で、自宅が自宅でなくなっていたのだ。
建物自体はあったものの、今朝まで自分の家だった場所は別の人物の家になっていた。
その上どこを探しても、誰に聞いても「真昼」という名前も「豹徒」という名前も見つからなければ、そんな人は知らないと言われるばかり。
そこで豹徒はようやく無視していた違和感と向き合わされた。
いつもと違う町並み、荒川デモのニュース、大通りから聞こえてくる抗議の声、そしてなにより豹徒と真昼を知る人物がいないということ。
薄々感じていながらもそんな馬鹿なと否定していたことだったが、ここまで揃ってしまえば否定することは難しい。
ここは自分のいた時代とは違う、前世の自分が生きた時代だと、豹徒は確信を持ってしまった。

「嘘、だろ……」

震えた声で一言だけ呟く豹徒。
その顔は真っ青で、強く握られた拳は震えている。
それも当然。ようやく出来た居場所だと思っていたのに、そこには二度と帰れないかも知れないのだ。
しかし突っ立ているばかりでは今日の宿も飯も得られない。
豹徒は突然身を翻して、とある場所へと走り出した。
自宅だと思っていた場所へ帰る途中や情報収集をしていた時、人の顔や街並みを嫌でも見せられて、全くと言って良いほど覚えていなかった前世を少しだが思い出せたのだ。
その思い出せた記憶の中に、前世の自宅があった。
この辺りは前世の豹徒はあまり知らなかったが、今の豹徒の記憶と照らし合わせてそこへ向かう。
あちらの角を左へ、次の角は無視をして、豹徒にとって馴染みの店を今度は右へ。
数分走ってようやくたどり着いたその場所は、『紅ぼんぼり』の遊女が住んでいるはずの長屋。
その長屋の入り口を塞ぐようにして豹徒は座る。
ここで待っていれば、間違いなく前世の自分に会えるという考えからだ。
太陽しか判断するものはないが、おそらく昼なのでそろそろ帰ってくるはずである。
そして豹徒は待っている間に何と言って泊めてもらうか、どうやって自分が来世だと証明するか、考えることにしたのだった。

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