仕返し



 ところ変わって大広間。マクゴナガルの説明やポッター、ウィーズリー、グレンジャー、たまにマルフォイの声を聞きながら、私は組分け帽子を見つめていた。
 ハンナ・アボットの名前が呼ばれた。彼女はたしかハッフルパフだ。

「ハッフルパフ!」

 予知の通りに事が進むのは全く構わない。そんなもの、いつでも壊せるイレギュラーの私が好きに行動すればいいだけだ。
 その後も続々と名前が呼ばれ、しばらく待った後、私も呼ばれた。

「ホーデンワイス、カルラ!」
「……こんにちは。いや、こんばんは? 貴方は私をどこへ入れるのだろうね」

 ほっほ、と組分け帽子は笑った。生意気な
妖精――妖精
だと。
 少しの沈黙の後、組み分けが開始された。

「ふむ……これはまた難しいものをよこしたものだ。……一つだけ言わせてもらうと、感情は捨てぬ方がよろしい。感情は君を傷つけるが、同時に救う。どこかに欠片だけでも持っていなさい」
「心に留めておこう。実行するかはさておき」
「ぜひ実行してほしいものだ。__さて、組分けだが。君は狡猾だね。栄光や地位に興味はないが、後のことを考えて勇気ある行動をする。勇気は、それ以外の場面では人並みに。知識もたくさん蓄えておる。然るべき時に備えてな。そしてそれを成し遂げられたのは偏に勤勉だからだ」
「お褒め頂きありがとうございます」
「“前”は英知に気を取られてレイブンクローに入れてしまったが、君と妖精の性質を考えて――」

 ――スリザリン!

 妥当な判断だと思ったが、見知った顔から驚きの声が溢れている。彼の寮か……あまり嬉しくない。ミケの減点があり得る。いくら彼がスリザリン贔屓でも、だ。

 首に蛇をまいた私がスリザリン寮に入るとは、本当に蛇との因縁が気になってきた。
ここまできて「何もない」なんてオチは、さすがの私も許さない。

「先輩方、これからよろしくお願いいたします」
「ああ。俺はマーカス・フリントだ。よろしくな。ところでその蛇は?」
「私の半身、ミケです。持ち物に蛇について言及されていなかったので連れてきました。校長の許可は今からとります。大人しいですから安心してください。私のことをばかにしたり、辱めたり、陥れたりしたら、当然ですが咬み殺されますので、ご注意を」

 最後の一言とともにミケが口を開く。鋭い牙と広い喉を見てしまった全員が顔を青ざめさせていた。
 まあ、これでもなお嫌がらせするような勇敢かつ向こう見ずな人間はグリフィンドールに行くだろうから、スリザリン寮での生活はそこそこ快適だろう。
 “彼”のようにグリフィンドール生からいじめられなければ。

 スリザリンの監督生は、男子がレオナルド・フォウリー、女子がジェマ・ファーレイというらしい。
 フォウリーは聖28一族であり、ファーレイも純血らしく、二人とも純血思想だった。ファーレイはまだ良識のある人間のように思えたが。
 私がチェンジリングだということは未だ伏せてあるが、これは切り札だ。そう易々と見せるわけがない。
 最悪の場合は、殺して、全員から記憶を拝借して、ミケに食べてもらう。

 新入生全員の組み分けが終わって、食事をとった。母の料理の方が美味しい。
 就寝時間だというダンブルドアの言葉に従って寮へ案内される。その道中、マルフォイが見えたので声をかけた。

「マルフォイ、マダム・マルキンの店以来だな。元気だったか?」
「……」

 無視された。
 ミケが殺意の篭った目で睨んでいるが、彼は鈍いのか何なのか、特に気にしていないようだ。実に腹立たしい。私とミケを無視するなど、あってはならない。

「マルフォイ」
「……なんだ、ホーデンワイス。しつこいぞ」
「うちについて調べた?」
「ああ、調べたとも。どこにもなんの情報もなかったが?」
「……あと30qほど離れてくれるか? ばかがうつりそうだ」
「なっ……!」

 グリフィンドールが近くを通ったのを確認してから、肩を叩いて話しかけた。私の狙い通り、マルフォイはポッターたちに笑われていた。
 悔しそうな顔が最高にたまらない。ぞくぞくする。いずれ感情など捨て去るつもりだが、今は別だ。ミケと私を無視した罰を存分に味わえ。

「貴様……!」
「マルフォイ、ホーデンワイスについて知りたいなら魔法使いでもマグルでもないものを調べろ。一つのジャンルを調べただけで全てを知った気になるのは傲慢というものだ」
「……わかった」

 彼は素直だ。だからこそヴォルデモートに利用されるのだが。
 ……できれば誰も殺さずに終わりたい。流れが変わってもいいから、こちらもあちらも死人のないようにしたい。
 それがたとえヴォルデモートでも。

 まあ、そんなことができるとは到底考えていない。
 いないが、せめて死に救いがあるようにと考えて、私はこれまで多くの経験と努力を積み上げてきた。これからも積み上げていくつもりだ。

 それで彼らを救えるのなら。

「新入生諸君、ここがスリザリンの入り口だ」
「どこにもないように見えるだろうけど、ここの入り口は隠し扉なの。合言葉を言うことで開くのよ。さて、その合言葉だけど……他言無用よ? 《純血》。これが合言葉。よく覚えてね」

はい、といい返事が地下室に響いた。
純血――スリザリンの排他的な思想の表れだろうか。自分たちのフィールドで全て完結させてしまうこの寮の性質に、私は賛同できかねる。

 才能がある人間がいたとする。その人間が才能を発揮するためには、まず、どれが自分の得意とするものなのか、どれが自分の好きなものなのかを見極める必要がある。そうでなくては継続できない。
 自分たちの中でだけ優秀な人間というのは、案外、外に出してみれば凡人だったりするものだ。
 つまり何が言いたいかというと、何事にも挑戦し、何事とも関わらなければ、己の真の価値など発見できないということだ。

 マルフォイには才能があった。未来の彼は閉心術や魔法薬学(これは贔屓があるかもしれないが)、変身術で良い成績を収めている。
 それを生かしてやれば、彼はヴォルデモートの言いなりにならずとも家族を救えるのではないか、と私は考える。そのための私の家についての学習だ。妖精の子だと知ったらどういう感想を抱くのかは、そもそも未来視をしないように心がけているので不明だが、おそらく厭われるだろう。
 ――けれど、彼は狭い視野で物事を図っている節があるから、こういう異質な存在に触れるべきなのだ。

「フリント、クィディッチって一年生はできないんですよね?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「いえ、興味があるので、一年の今の内に練習したらメンバーになれるかなと思って」
「俺はキャプテンをしてるが、採用されるかは実力次第だな」
「キャプテンなんて、フリントはすごいですね。教えてくれてありがとうございます」

 マルフォイの枠に私が入ればフェアプレイでも勝てるようになったりしないだろうか。箒ならもしかしたら私でも解決できるかもしれないし。うちで作ればいいのだから。

 すごいと言われて気分が良くなったのか、来年度が楽しみだな、と頭を撫でられた。わしゃわしゃされると髪型が崩れるのでやめてほしいが、撫でられるのは好きなので我慢した。
 マルフォイが見ているのをミケが教えてくれたが、どういう意図であれ特に関係はないだろうと考え、無視した。彼が私が気づいたことに気づいているかは知らない。

 その後は、同室の女子と軽く挨拶を交わし、持ってきたシフォンケーキを差し出してミケの存在を許してもらった。うち二人は嫌悪感を隠さずにお菓子だけ食べていたが。……服従薬を仕込めばよかった。
 女子は基本、甘いものと噂話が好きである。
 ちなみに甘くないお菓子も作ってきているが、これは紅茶とともに食べるべきだと私は考えている。異論は、美味しければ認める。



【 5/13 】

back】【next
contents
bookmark]









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -