うたたね



 無事に買い物が終わった。その後は記憶に残る目立つ面子の誰とも遭遇しなかったのが唯一の救いだろうか。

 家に戻ってすぐ、彼ら四人に本当の両親について聞いてみたものの、全員が「知らない」と答えた。憤った私は、家中の窓を破るほどの魔力暴走を起こした。
 それでも彼らは「本当にわからない」と言うので、もう諦めた。

 今はキングス・クロス駅の九番ホームにいる。妖精王二人は治世のため来られなかった。ホグワーツに四人と一緒に通うという夢は叶えられなかったが、仕方ないだろう。彼らには彼らの事情があるし、ホグワーツには規則があるのだ。

「では、行ってきます」
「手紙はそこまで高頻度で送ることはできない。だが、寂しくなったら我慢せずに言いなさい。すぐに会いに行くから」
「わかりました。わがままを言いたくなったら言わせていただきます」

 お辞儀してから、壁に向かって突っ込んだ。
 反射で目を瞑るが、予想していた通り、衝撃はなく、ただ先ほどまでとは違う景色が広がった。

「「こんにちは、金色のお嬢さん!」」
「その荷物、僕らが運んでおきましょう!」
「その御身、僕らのコンパートメントへ!」

 たしか……フレッドとジョージだ。フレッドの方が、片耳を失うのだったか。それとも死ぬのだったか。まあどうでもいいが。
 私は微笑んで返事した。

「席が空いているのなら、お邪魔させていただけますか? もう空いている席も少ないでしょうし。荷物も、申し訳ありませんがよろしくお願いします。この身長ではなかなか辛いので」

 そう言うと、二人は顔を見合わせた後、「「こちらこそよろしく!」」と同時に手を差し出した。おそらく握手を求められているのだろう。そう考えて、右から順に右手で握手した。

 荷物を運んでくれたのはどちらだろうか。私には一切わからない。わかろうとしていないともいうけれど。
 どちらかわからないが片割れに感謝すると、「違うぜお嬢さん」「運んだのは俺だ」と言われた。それがどちらなのかもわからない。全身全霊で視ようと思えばわかるだろうが、そんな疲れることをこんなことのためにしたくない。
 演技で眉を下げると、二人は顔を見合わせて「気にすんなって」「いつものことさ」と慰めてくれた。
 そして、その流れで自己紹介をした。

「俺はフレッド」
「俺はジョージ」
「さてさてお嬢さん」
「あなたの名前は?」
「双子だからでしょうか。掛け合い、すごいですね。カルラ・ホーデンワイスです」
「ありがとな、レディ」
「よろしくな、カルラ」

 とりあえず髪の分け目で判断することにした。私から見て右がジョージ、左がフレッドだ。これでまた、いたずらと称して髪の分け目を変えてくるのだろうから厄介だ。

 同じコンパートメントの中にいたリー・ジョーダンにも自己紹介する。
 こちらも握手を求められたので、媚でも売っておくか、と両手でふにふにと手を挟み込んだ。双子に羨ましがられたので、どっちがどっちかわからないまま同じことをした。
 満足げな顔をした三人に苦笑して、席に腰を落ち着ける。思い出したかのように私にタランチュラを紹介してきたリーに若干引きつつ、ケージを覗き込む。

「……上からじゃ威圧感があるかな。横から覗かせてもらっていいですか?」
「ああ、構わないよ」
『……喰えるか?』
「ミケの捕食対象じゃないから食べちゃだめ」

 ミケが舌を出して鎌首をもたげたので、慌てて止める。やめなさい、タランチュラの毒で死んだら私が困る。

 その後は雑談したり、車内販売のお菓子を全制覇したり(私の家は想像の五倍くらい金持ちだった)、眠ってしまった私にフレッドまたはジョージがローブをかけてくれたりした。
 起きた時に慌てて感謝すると、「ミケが怖かった」と口を揃えて言われた。彼は私の騎士なので、と謝罪すると、どういうことかと聞かれた。

「ミケは、私が小さい時から、私に害があるものを丸呑みにしたり、咬み殺したりしてくれていたので、三人のことを警戒して、眠ったのは薬を盛られたせいだと考えたんだと思います」
「おいおいカルラ」
「聞き捨てならん」
「俺たち」
「そんな」
「こと」
「一切」
「「してないぜ?」」

 それは分かっている。単にお腹がいっぱいになって、揺れる車内でついうっかり眠ってしまっただけだ。
 過失があるとすれば確実に私なので、その点はきちんと説明し、「ミケの信頼を得るのは難しいが、その分私が信頼している」と付け加える。
 それならいいんだと破顔した3人に微笑みかけて、私は制服に着替えることにした。3人には窓を向いてもらった。さすがに着替えを見られて何も感じないほど羞恥心を捨ててはいない。
 制服で来ていたのだが、思ったより寒かったため、ローブではなくセーターを着ていた。おかげで素早く着替えられた。

「着替え終わりました」
「え、もう? あまり布の擦れる音がしなかったけど」
「下に制服を着ていましたから」
「あぁ、なるほど」

 ……しかし、目下セブルス・スネイプが問題だ。私がどの寮に入るかはさておき、蛇と一緒など、絶対に因縁をつけて減点される。だがミケと離れる気は一切ない。私はミケの唯一無二であり、半身なのだから。

 思考を続けているうちに到着した。ハグリッドに舟に乗れと言われ乗り込む。同じ舟にはネビルとパーバティがいた。こんなメンバーだっただろうか。まあ、おそらく物語に関係はないから構わないか。

「こんにちは、私はパーバティ・パチル。よろしくね。あなたたちは?」
「ぼ、僕はネビル・ロングボトム。うん、よろしく」
「私はカルラ・ホーデンワイス。よろしく」
「よろしくね。カルラって、その細腕でよく船を漕げるわね……」
「両親の仕事について行っていたし、重たい教科書や鍋を運んでいたからだろうな」

 彼らに遠慮をしていた私は、逆に迷惑にならない程度に彼らの仕事を私に回してもらっていた。役に立っていたという自負はある。治療や書類整理、仕事部屋の整理整頓、荷物運びは私の仕事だったのだ。見た目に筋肉は現れなかったが、密度は人一倍だと自負している。

「僕、船を漕いだことなんてないから手伝えなくて……ごめんね、カルラ」
「気にするな。できることをできる人がやる、できない人を手助けするというのが私の理念なんだ」
「カルラってすごく大人ね……!」

 パチルから憧れの視線を感じる。気分が良くなったが、これではいけない。もっと冷静沈着な怪物にならなくてはならないのに。

 どこまでも心を殺して、最後に彼らを救って終わりにしなくては。

 ――そうでなければ、未来を変える私の贖罪は終わらない。


【 4/13 】

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