ドフラミンゴとローくん達の電話が終わり、ドレスローザでの取引が明確になっていく。そんな中でも私たちの船長は楽しそうで、サンジくんの朝ごはんを食べるためにキッチンへと歩いて行った。ローくんはそれを見て動揺していたけれども、彼もお腹は空くみたいで彼らの後に続いてため息を吐きつつそれに続く。……だから、甲板に残されたのはパンクハザードでの敵、そしてローくんの言う取引の重要材料であるシーザーだけになっていた。海楼石の錠をつけられた彼は恨めしそうに私たちの方を見てから俯いてただそこに座っている。彼はどうしようもないほどの悪い奴だけれども、なんとなくその姿は虚しく感じられた。






「……シーザーに?」
「うん……ごめんね、その……たしかにあの人は最悪だし私好きじゃないんだけど、でも……」
「───サナちゃんは優しいなァ、俺はサナちゃんのそういうところが好きなんだ」
「サンジくん……」
「レディの頼みじゃ断れねェ、それに食いてぇ奴には食わせてやる、そうだろ?」





どうしても彼の姿が忘れられなくて、洗い物に立ったサンジくんにこっそりと声をかける。彼は驚いた様子だったけれど煙草を一本吹かせてから了承してくれた。サンジくんは本当に優しい、きっと彼は仲間を傷付けた彼を許す気もないし、好きでもないはずなのに料理人としてのすべき事と私の想いをきっちりと汲んでくれるのだ。さりげなく残ったサンドイッチをバスケットに入れて渡してくれた彼は、自然な動作で私を甲板の方へと導くと、一つウインクをして手を振ってくれた。……ほんとに、優しいなぁ。と感動しながら改めて静かな甲板へと目を向ける。変わらずそこに佇むシーザーは私に目を向けた。




「……シーザー、」
「……シュロロロ……何の用だ小娘!」
「あなた、お腹空いてる?」
「は?」




ポカンと口を開けた彼の前に私も腰掛けてバスケットからサンジくん特製のサンドイッチを取り出す。彼はそれを凝視するとフン、と鼻を鳴らして餌付けのつもりか?と私を睨みつける。別にそんなつもりは無いんだけれども確かにそう思われても仕方ない部分はあるのかもしれない。




「でも、サンジくんの料理は美味しいよ」
「知るかそんなもん!」
「毒もないし……不安なら私が一口食べてみせようか?」
「お前しつこいぞ!?何故そんなに俺に食わせたがるんだ!?」
「……別にあなたのことが好きなわけでも、同情しているわけでもないです。ただ、お腹が空いている人にはあげるべきだと思った、それだけ」




うぐ、と顔を歪めた彼は案外素直な人なのかもしれない。どうぞ、と彼の口元までサンドイッチを運ぶとまた彼は私を鋭く見つめる。ふと足音が聞こえて、振り返るより先におい、と声がかけられた。見ると刀を抱えたローくんが厳しい表情でそこに立っていた。





「……アトラス屋、どういうつもりだ」
「ローくん……彼にもご飯をあげようかなって」
「おいシーザー……今の自分の状況でそんな頼みをしたのか?」
「なッ!?そんな訳あるか!この女が勝手に……!」
「……お前はどんなお人好しだ?こいつがやったことを忘れた訳じゃねぇだろ」
「でも、ごはんを食べる権利がない訳じゃないでしょう?彼を奴隷だとかそういう風に扱うのは多分ルフィも嫌だろうし」





私の返答に彼は盛大に眉を顰めると勝手にしろ、と帽子を引き下げる。……それでもその場から離れないのはきっと彼の優しさだと思う。万が一のことを考えてくれているのだろうか。真意は分からないけれども彼もまた悪い人ではない。





「はい、シーザー……あー……」
「……うぐ、」
「……それで指でも噛まれたらどうする」
「その時は私の仲間も……ローくんも多分、黙ってないと思うんだけど……どうかな?」
「本当に呆れたお人好しだな……ここまでいけば馬鹿か?」
「褒め言葉だと思っておくね」





意味がわからない、という表情のシーザーから目を逸らさずにもう一度、どうぞ、と口元までサンドイッチを連れて行けば彼はやけになったようにがぶり、と噛み付いた。食べやすい位置に調整してあげながら彼がそれを飲み込むまで見守った。嫌々といった様子の彼だったが、驚いたように自分の食べ口を見てから次の一口へとかぶり付く。どうやらサンジくんの料理がお気に召したみたいだった。





「……んむ、っ……おい、まだ、」
「うん、まだあるよたべる?」
「……食わせろ」
「分かった、じゃあ、あーん……」
「ん、ぐぐ、む、」
「…………おい、」





淡々とシーザーの口へと運び続けているとローくんが私の腕をぐ、と掴んでやめさせた。きょとん、と彼を見上げるけれど何処か複雑そうな表情で私を見下ろしていて、それから小さく、お前が食わせる義理はねぇだろ、と呟く。彼はサンドイッチを私の手から取り上げるとバスケットの上に置き、私をそのまま立ち上がらせた。




「な、おい!」
「もういいだろ、食いたきゃ這いつくばってでも食え」
「ロー……!テメェ舐めた真似を……!」
「お前の心臓は俺の手にある、忘れるな」
「こ、こいつ……!おい!待て!女!」
「え、あ、えと、とりあえず残しちゃダメだよ!」
「そういうことを聞きたいんじゃねぇ〜!!!」





ぐいぐいと腕を引いた彼はキッチンまで私を送り届けた。サンジくんはそれを見て目を丸くしてサナちゃんに何気軽に触れてんだ!?と彼に詰め寄っていた。誤解だ、とその圧に戸惑う彼を見て「私を心配してくれたんだよね」とサンジくんにも伝わるように声をかければ、ぐい、と目を逸らされる。サンジくんはその反応を見るとタバコを噛み締めてからサナちゃんを守ったなら許すが今後一切は……とローくんを睨みつけた。居心地悪そうな彼だったが隙を見て能力を使い、一瞬にして姿を消してしまった。改めて一緒に居てくれたお礼を言うつもりだった私はタイミングを逃してしまった、と少し後悔したが、アイツ!と悔しそうなサンジくんの顔を見て、ふと、もう一つ、提案が浮かんだ。





「あのねサンジくん、もう一つお願いしていいかな……?今度はおにぎりなんだけど……」









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